天に見えるは、月
驚きすぎて、声も出ない。
この会社の男女比は七対三ぐらいで、圧倒的に男性が多い。そういう職場だから、以前から“そっちの人”がいるらしいという噂は聞いていた。
でも、まさか。
童顔で可愛らしい雰囲気の彼が……同性愛者だったとは。
申し訳ないけど、勿体ないと思ってしまう。
「そんな顔しないでよ」
「ご、ごめんなさい……」
弓削は眉尻を下げて、悲しそうな顔をしている。年下男子が好きな女性なら、キュンとしそうな顔だ。
「……変な奴、とか思ってる?」
弓削は不安そうに香凛を見つめている。
「いえ、全然……。こういうことを面と向かって言われたことがないから、ちょっとびっくりしちゃっただけで……」
「それなら良かった。でも確かにこんなこと言われたらびっくりするかー」
弓削は唐揚げを口いっぱい頬張りながら笑みを浮かべた。
「他の人には言わないでね」
「も、もちろん」
香凛は油揚げをひと口齧りながら、味噌汁を啜る弓削をちらりと窺う。
彼の言うことが本当ならば、今まで胡散臭いと思っていたことは改めなくてはいけない。ちょっとだけど、申し訳なさも込み上がってきた。