天に見えるは、月



これからどうすればいいのだろう……考えれば考えるほど気が重い。

総務課は必死で築き上げてきた香凛の“居場所”のひとつだった。
次の場所は“居場所”になりえるのだろうか……。

不安要素がありすぎる中で、気がつけばそのことを一番に心配している。
自分の居場所は、ひとつでもなくしたくない。


「ん……っ」

不安な気持ちを隅に追いやろうと、香凛は“行為”に集中した。薄目を開けると、目の前で体を揺らしている人間は、香凛の顔ではなくじっと結合部分を見つめている。

以前なら、こういう時はちゃんと顔を見てくれていたのに……。

寂しい感情に支配される前に、香凛はぎゅっと目を瞑った。
ここもまた、自分の居場所なのだ。出来るだけ居心地よく過ごしたい。

でも本当は、この人の隣がもう自分の居場所ではなくなったのかもしれないと、香凛は薄々気づいていた。でも今それを認めてしまったら、自分を支えている何かが崩れてしまいそうで、怖くて認めることが出来ない。


彼は暑がりで、こういうことをする時はエアコンをガンガンかけて部屋をこれでもかと冷やす。まだ三月下旬で外の気温はやっと二桁になったばかりだというのに、お構いなしだ。

「……んあぁ、何なんだよ!」

コトが終わると寒くて我慢できなくなって、香凛はラブホテルの薄い布団に潜り込み彼に体をくっつけただけだった。特別おかしなことをしたわけでもないのに、怒声に近い声を上げられて身が縮み上がる。


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