初恋ブレッド
おつかれパン
「おはよー」
「あっ、おはようごさいます」

今日も宮内部長は早いなぁ。
昨日は変な態度ばかりとってしまったから、嫌われて無視されるかもって気がかりだった。
少し胸を撫で下ろしてゴミ集めを始める。

皆の机の下にあるゴミ箱を一つ一つ。
これが結構腰にくる。

「すみません、宮内部長。ゴミ箱を……」
「あぁ、ありがとう。掃除手伝えなくてごめんな」
「えっ、いえ!私の仕事なので」
「そんなことないだろ。田代が入ってから毎朝オフィスが綺麗で気持ち良いよ」
「そんな、ありがとうございます」

私はバッと頭を下げて、ゴミ集めに戻る。
部長は、私なんかにはよくわからない製図をPCの画面いっぱいにして、普段の優しい笑顔からは想像できないほど鋭い目つきでマウスをカチカチ鳴らしていた。

何か役に立っているわけでもないけれど、こんなふうに言ってもらえると嬉しいな。

心がほっこりして部長を眺めていると、デスクの上にある大量のパンが目に入った。

「うわぁ!」

「……ん?」
「あっ、すみません。あの、パンがいっぱいで……。つい」
「あぁ、昨日も言ったけど。俺大好きなんだよ」
「これ……、全部食べるんですか?」
「残業あるからね、夜食分も。コンビニのパンは制覇したよ」
「えぇっ、凄い」
「でもパン屋に寄りたくても時間が合わないからさ、新商品待ち」
「本当に大好きなんですね」
「田代も好きなんだろ?」

PCの画面から目を離した部長は、柔らかく微笑んで真っ直ぐに私の目を見つめる。
バチッと合った視線に驚いて、私は慌てて俯いた。

「……あっ、はい。作るのが好きなので」
「そっかぁ!美味そうだから、どこで買ってるのか気になってたんだよ」
「えっ、そんな素人ですから!……趣味なんです。家族にしか食べてもらったことないので、美味しいかもわからないし」

いくら毎日作っていても、自信があるわけじゃない。
眼鏡をかけ直しながら、もじもじと言い訳していると、部長は「そうだ!」と掌を打った。
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