初恋ブレッド
8時30分になると、いつものように仕事に取りかかる。


今日こそ怒られないように頑張ろう。
落ち着いて、落ち着いて。

毎朝心の中で思うことなのだけれど、未だに達成されずはや半月。
まず話しかける最初のワンアクションに大分気力を使っている。

「おっ、おはようございます。白坂先輩、今日は……」
「明日、会議で使う書類を作るから」
「はいっ」
「部署ごとに報告書と資料をコピーして、間違わないように綴じて」
「わかりました」
「報告書は各部長のところへ取りに行ってね」
「はい」

よし、とりあえず報告書を回収しちゃおう。
宮内部長のデスクへ向かおうとすると、力強く肩を引かれた。

「わっ!?」
「設計は私が行くから、根岸部長のところへ行って」
「あ、……はい」

あはは、また長くなりそう。
重い気持ちでドアノブを握り締めオフィスを出ようとした時、聞こえてきたのは白坂先輩の可愛いらしい声。

「宮内部長~!会議で使う報告書なんですけど」
「あぁ、これ。よろしくね」
「はい!……部長、いつも難しそうな図面描いてて肩凝りません?」
「ん?」
「私、マッサージ得意なんでいつでも揉みますよ」

そう言って部長の肩揉みを始めた先輩。
部長はカッコイイし先輩はカワイイし、絵になるなぁ。

「ありがとう。俺は大丈夫だから、大変だろうけど報告書よろしくね」
「はいっ!任せてくださいっ」

ニコッと先輩に向けて微笑んだ部長に、胸の奥がモヤッとする。
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