初恋ブレッド
「…………ごめん」

とりあえず謝るが、田代は頬を染めてヘラヘラと笑ったまま。

「俺、一体どんな……」

取り返しのつかないようなことをした記憶はないぞ、……多分。
だんだんわからなくなってきた。

「覚えてないんですか?」

真っ直ぐな瞳で覗き込まれると、まじかよと頭痛がしてきて。
俺がこめかみを押さえると、悲しそうに眉を下げて口角を上げた。

「でも嬉しかったです。ありがとうございました」

「ご、ごめん」
「いいんですよ、私なんて……」
「本当にゴメンナサイ」
「そんなっ、もう謝らないでください」
「いやでも」
「そもそも私が部長の言う通り、言い返せるようにならなくちゃいけないので!」
「……ん?」
「心配かけないように頑張ります!」

「……ごめん今、いつの話してる?」
「え?昨日の歓迎会の時の……」

首を傾げる田代に溜め息を吐き、ガシガシと頭を掻く。
そっちか。
そういうことか。

「あー……、待って最初から。なにが怖かったって?」
「宮内部長がいつもと違うから……。驚いたけど優しい部長に変わりはないので、大丈夫です」
「……ちなみに嬉しかったのは?」
「えっ、怒ってくれたこととあと……、ふふ」
「あとなに?」
「……私、男の人に初めて可愛いと言われました。あっ、もちろん本気じゃないのは承知してます!」
「じゃ俺がしたことって……」
「偉そうにお説教したり、佐々木先輩を蹴ったり」
「……はぁ」
「宮内部長が普段と違うことは、絶対に誰にも言ったりしません!」

こいつ、ややこしいな!
なんかムカッとして、ぷにぷにした頬をみょーんっと引っ張った。

「い、いひゃい」
「かーわいー!」
「かっ、からかわないでくださいよ」
「仕返しだよ」
「なんのですか……」

不服そうにぶーぶー言う美琴は、俺が手を離した後で柔らかなそれをぷくっと膨らませてみせた。

「もうっ!宮内部長、本当は子供っぽいですよね」
「え……?」
「悪戯するしちょっと強引だし、パンのことしか頭にないでしょ?」
「……ふーん。上司に言うねぇ?」
「あっ!つい、あの。悪い意味ではなくて、えっと……」
「いや冗談、俺こそごめん。昨日そんな酷かった?」
「いいえ?前から思っていたというか、仕事してない時の部長のことですよ?」
「……え」
「だけど昨日も、……ふふっ」
「実際こんなで悪かったな」
「そんなことっ!……でも会社だと部長だし仕事も大変だから、仕方ないと思います」

だから気を使わなくていいって言ったのか。
仕事となるとスイッチが入るというか、入れざるを得ないというか。
期待されるのは有り難いが、変な重圧みたいなものも確かにあって。

俺のそんなところ、気づかれていたと思わなかった。
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