初恋ブレッド
ピー、ピー。
「「あ」」
一次発酵まで終わったホームベーカリーに呼ばれて我に返る。
ほんのり温かい生地を取り出すと空気が和んだ。
「もう焼くの?」
「その前にガス抜きをして、ベンチタイムです」
「なんだそれ?」
「生地の中の空気を抜くんです。ベンチタイムは生地を休める時間。そうすることでまたガスが出て、極め細かなパンになるんですよ」
「へー、それでふわっふわになるんだな」
「はいっ!とても大切です」
ちゃんとガス抜きをしないと穴だらけのパンになってしまうのだ。
約二十分休ませたら、いよいよクリームを詰めて形にしていく。
「好きな形にしていい?」
「ふふ。どうぞ」
私は定番の形にしておこう。
麺棒で伸ばしてクリームを置いたら、半分に折ってよく閉じる。
上のほうだけ、包丁で切り込みを入れた。
成形したら二次発酵はオーブンで三十分。
最後に溶き卵を塗って焼いたら、できあがり。
「お待たせしました~!」
焼き立てのパンと紅茶を淹れて、二人でテーブルを囲んだ。
せっかくなのでチョコペンでお絵描き。
子供っぽいかとも思ったのだけれど、部長が楽しそうで一安心。
「すげー良い香り。いただきます!」
「どうですか?」
「幸せすぎる……。焼き立てってこんなに柔らかいんだな!」
「良かった。それはクマを作ったんですか?」
「可愛いだろ?食べるのはカワイソウだけど。耳食わせてやるよ」
「ありがとうございま、ふっ!?」
部長がクマの耳を千切ったので私は手を出したのだが、無視されて突然口の中に押し込まれた。
「ククッ」
「いっ、いきなり!」
「驚きすぎ」
「だって!……もう。部長ってやっぱり、お茶目ですよね」
怒ったふりをしてプイッとそっぽを向くと、膨らませた頬を引っ張られた。
「なにふるんれすか」
「誰がお茶目だ」
「ごっ、ごめんなはい……」
「しっかし美琴は柔らかいなー。パンばっか食べてるからこうなるのか?」
「そしたら部長はもうパンになってるはず!」
「ハハッ、確かに」
「そういえば昨日も。私のことパンだと思ってたでしょ?」
「……思ってないよ」
「あ、惚けてますね?いい匂いって言ってましたよ。パンの匂いがしたのかなぁ」
「……そう思う?」
不意に部長のトーンが低くなり、私は考える。
「うーん。毎日作ってるので、染みついちゃったのかも」
「じゃパンがなくなったら食うかも」
「あははっ、それは困ります。部長ってば本当に好きですね!」
「……うん、好きだな」
「さすが自称評論家です」
「そうだな。……認める」
「好きだよ」
視線を感じてふと見ると、会社で見るよりもずっと艶のある微笑みで目を細めていた。
ドキッと体が奮い立ち、それに戸惑う。
そんな思わせ振りな言い方……。
やだもう、勘違いしそう。
宮内部長はパンが好きなの。
そう、部長が好きなのは、パンなんだから。
「「あ」」
一次発酵まで終わったホームベーカリーに呼ばれて我に返る。
ほんのり温かい生地を取り出すと空気が和んだ。
「もう焼くの?」
「その前にガス抜きをして、ベンチタイムです」
「なんだそれ?」
「生地の中の空気を抜くんです。ベンチタイムは生地を休める時間。そうすることでまたガスが出て、極め細かなパンになるんですよ」
「へー、それでふわっふわになるんだな」
「はいっ!とても大切です」
ちゃんとガス抜きをしないと穴だらけのパンになってしまうのだ。
約二十分休ませたら、いよいよクリームを詰めて形にしていく。
「好きな形にしていい?」
「ふふ。どうぞ」
私は定番の形にしておこう。
麺棒で伸ばしてクリームを置いたら、半分に折ってよく閉じる。
上のほうだけ、包丁で切り込みを入れた。
成形したら二次発酵はオーブンで三十分。
最後に溶き卵を塗って焼いたら、できあがり。
「お待たせしました~!」
焼き立てのパンと紅茶を淹れて、二人でテーブルを囲んだ。
せっかくなのでチョコペンでお絵描き。
子供っぽいかとも思ったのだけれど、部長が楽しそうで一安心。
「すげー良い香り。いただきます!」
「どうですか?」
「幸せすぎる……。焼き立てってこんなに柔らかいんだな!」
「良かった。それはクマを作ったんですか?」
「可愛いだろ?食べるのはカワイソウだけど。耳食わせてやるよ」
「ありがとうございま、ふっ!?」
部長がクマの耳を千切ったので私は手を出したのだが、無視されて突然口の中に押し込まれた。
「ククッ」
「いっ、いきなり!」
「驚きすぎ」
「だって!……もう。部長ってやっぱり、お茶目ですよね」
怒ったふりをしてプイッとそっぽを向くと、膨らませた頬を引っ張られた。
「なにふるんれすか」
「誰がお茶目だ」
「ごっ、ごめんなはい……」
「しっかし美琴は柔らかいなー。パンばっか食べてるからこうなるのか?」
「そしたら部長はもうパンになってるはず!」
「ハハッ、確かに」
「そういえば昨日も。私のことパンだと思ってたでしょ?」
「……思ってないよ」
「あ、惚けてますね?いい匂いって言ってましたよ。パンの匂いがしたのかなぁ」
「……そう思う?」
不意に部長のトーンが低くなり、私は考える。
「うーん。毎日作ってるので、染みついちゃったのかも」
「じゃパンがなくなったら食うかも」
「あははっ、それは困ります。部長ってば本当に好きですね!」
「……うん、好きだな」
「さすが自称評論家です」
「そうだな。……認める」
「好きだよ」
視線を感じてふと見ると、会社で見るよりもずっと艶のある微笑みで目を細めていた。
ドキッと体が奮い立ち、それに戸惑う。
そんな思わせ振りな言い方……。
やだもう、勘違いしそう。
宮内部長はパンが好きなの。
そう、部長が好きなのは、パンなんだから。