初恋ブレッド
「……大丈夫か?」
「わっ」

顔を掬い上げられてまじまじと覗き込まれると、瞳の奥から沸々とした熱が込み上げてくる。
漏らさないように、唇をきゅっと結び瞬きも忘れて呼吸を止めた。
心配そうに額を測る掌に言い訳を探す。

「……熱あるんじゃない?」
「え?」
「顔赤いぞ」
「そっ、それは……」
「昨日酒被ったりして濡れたままだったろ?風邪ひいたんじゃないか?」
「いえ、私は元気ですから……」
「それに俺が布団取ったから薄着で床に寝てたし……」
「本当に大丈夫ですっ!」

限界点に達して思わず振り払うと、部長が驚いて体を引いた。
私ったら、なんて失礼なことを……。

「あ、すみません……」
「わり。ベタベタ触られたら嫌だよな」
「そんなことないですっ!あの、心配してくれてありがとうございます」
「すまん。嫌なことしてたらちゃんと言って」
「ち、違うんですっ!私、そもそも男の人とまともに話すなんて部長が初めてなので、緊張して赤いだけだと思います!」
「…………え」
「どうしたらいいか、わからなくなっちゃって。嫌じゃないし、むしろ宮内部長のこと大好きなので嬉しいです!」
「っ、それはどういう……」
「私、上京してから友達もいなくて。どんくさいし仕事もまだまだだから、自信なかったんです」

それなのに、こんな私にも優しくしてくれて……。
紅潮する頬のまま勇気を出して部長を見ると、心なしか部長の頬もいつもより赤い気がした。

「毎日頑張れているのは、部長と知り合いになれたおかげです!尊敬してます!」

「……あぁ、そう。……そっちね」
「でも部長みたいに素敵な人が、私なんかを気にかけてくれて申し訳ないというか……」
「なんで申し訳ないの?」
「だって私、地味だしパッとしない田舎者で……。あ、昨日も恋人だなんて間違われたし。怒ってませんか?」
「はぁ、なるほど。物凄い否定されたから、嫌われてるのかと思った」
「そんなっ、逆ですよ。部長は雲の上のような人ですから」
「なんだそれ」

フンと鼻で笑う部長が、熱帯びる私の頬をむにむにと引っ張る。

「ひとつ言っとくけど」
「はひ?」
「俺はお前が思ってるような、素敵な人でも良い人でもないからな」
「え?」
「覚悟しろよ」

そう言って私を射抜いたのは、いつか盗み見た、彼が仕事に集中している時の鋭い目つき。

あれ、どうしよう、私。
ドキドキが止まらない。

「が、頑張ります!」
「ハハッ!仕事じゃねーよ」

部長は乱暴にわしゃわしゃと私の髪を掻き回した。
< 49 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop