初恋ブレッド
うらはらパン
月曜日、今日は宮内部長が食べたいと言った、メロンパンを持って出勤。

実はビスケット生地に自信があって、近々作れたらと思っていたのだ。
我ながら一口食べた時のサクッ、ふわっの食感がたまらない。
もう一種類は焼きそばパン。
菓子パンだけじゃ飽きるだろうし、部長がお腹空いてしまったら大変だし。

あんなに嬉しそうな顔してくれるんだから、私のできる精一杯を食べてもらいたいもの。


その思いはみなぎっていて、もちろんしっかり作ったのだけれど。
昨日はパンを作る以外、一日中ボーッとしてしまった。
だって、何かしようと思っても手につかないし、やる気が起きないんだもん。

自分の気持ちに気づいて、向き合って、押し込めて……。



そうして迎えた月曜日の朝。

何も変わっていないのに、生まれ変わったみたいに鮮明なオフィス。
少し肌寒いけれど、それが心を沸き立たせた。

ほうきで掃いて、ゴミを集めて、時々宮内部長のデスクに焦がれて。
掃除をしていると、聞きたかった「おはよー」の声が響く。
続いて私の頭にポンと乗る、温かい掌に驚いた。

「おっ、おはようございますっ」

まるで心臓が飛び跳ねて、返事を絞り出しふぅと息を吐く。
なんだか今日の私はおかしい。
自分の気持ちにハッキリ気づいたら、宮内部長の顔が見れなくなっちゃった。
今までの眼鏡よりもよく見える、コンタクトをしているせいかも。
フィルターがかかった私に、どうか上を向く勇気を。

「調子どうだ?」
「はいっ、おかげさまでよく見えます」
「まぁそれもだけど。具合は?」
「え?」
「体調、悪くない?」

私が首を傾げると部長も同じく首を傾げ、落ち着いた前髪がサラリと揺れる。
それがなんだか可愛いく見えて、ポッと頬が火照るのを実感した。

「元気です!」

照れくさいけれど嬉しくて、唇を噛み締めたままニッコリ笑う。

「…………なら、いいけど」
「あっ、これ。ありがとうございました。それと今日はメロンパンです」
「おー!美味そう」

私がカーディガンとパンを出すと、たちまち笑顔が花咲く部長。
胸がきゅっと鳴いて、また頬が火照った。

「実は自信作なんです」
「今食べたいくらいだ!って、やっぱり美琴……」
「え?」
「本当に元気?」

眉を寄せて私の頬を指差す部長に、慌てて首を縦に振る。
真実は不埒な理由なのに、心配されてしまうなんて恥ずかしい。

染まった頬は恋の温度。


宮内部長のせいですよ。
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