初恋ブレッド
「お前が謝ってどうする」
「いたっ!」
「……あ、ごめ」
頭を下げた瞬間、部長にタンコブを叩かれた。
「田代さんは悪くないって。言い寄ってんの俺だよなー」
「そんなことっ!あ……、あと平出部長にも申し訳なくて」
「大丈夫。あの人は無愛想なだけで本当は誠実な人だから、気にしてないよ。社長と根岸部長も信じてないし、田代は堂々としてな」
「…………はい」
「そうそう。上役は司がなんとかしてくれるから、安心して!」
「えっ……?」
「我らが宮内部長、珍しく朝から走り回ってたよな~」
「大介。そこバラしたらカッコ悪いだろ」
「一人だけカッコつけんなよ。ま、俺ら絡みだしこっちが否定すればそれまでだよ!」
「……ありがとうございます」
「あ、俺的には本当に付き合ってくれてもオッケーなんだけど!」
「もう、佐々木先輩。またからかって……」
私が嫌われたかもと気にしている間に、部長や先輩はフォローしてくれていたんだ。
どんよりと真っ暗だった心が暖かくなる。
私はここに、一人じゃないんだ。
「田代さん、俺ら昼飯ここで食べるけど一緒にどう?」
「えっ、いえ私はっ」
「遠慮しないで~!田代さんは弁当とか手作りしてんの?」
「でもっ」
噂が広がっている間は私と一緒にいないほうがいいんじゃ……?
そう思いながらも佐々木先輩は気にしないようで、華麗に私の腕を引っ張っていく。
三人でオフィスの奥の設計部の空いているデスクに集まり椅子を寄せた。
簡単な部品を組み立てたり仕様を見る時の作業台に使っているらしい。
ここからだと総務部までよく見渡せた。
持っていたランチを広げながら、私は「あっ」と声を呑む。
隣に座る宮内部長を躊躇いがちに見つめると、神妙な面持ちで咳払いした。
「大介に言わなきゃならないことがある」
「なによ?」
「俺のパン屋」
宮内部長はトンッと私の左肩に手を乗せ、ニッコリ微笑んだ。
「……司のパン屋?」
「そう。行きつけの」
「…………ま、待って!そーゆー関係なの!?田代さんフリーだって言ったよね」
「は?はいっ!そんな、滅相もないです」
「どーゆーこと!?」
目を白黒させる佐々木先輩に簡単な経緯を説明する、なぜか意地悪な目つきをした愉快そうな部長。
でもまさか私が作ったパンを、会社で一緒に食べるなんて思わなかった。
恥ずかしくて肩を竦めていると、部長に突然両耳を塞がれる。
「っ!?」
『大介は冗談でチョッカイ出してるんじゃないよな?』
『あぁ、俺はマジだ』
『だと思った』
『なんだよ』
『お前には渡さない』
「えっ?どうしたんですか?」
パッと両手を離されてから戸惑う私に、真顔で見つめ合っていた二人は「なんでもない」と笑った。
「いたっ!」
「……あ、ごめ」
頭を下げた瞬間、部長にタンコブを叩かれた。
「田代さんは悪くないって。言い寄ってんの俺だよなー」
「そんなことっ!あ……、あと平出部長にも申し訳なくて」
「大丈夫。あの人は無愛想なだけで本当は誠実な人だから、気にしてないよ。社長と根岸部長も信じてないし、田代は堂々としてな」
「…………はい」
「そうそう。上役は司がなんとかしてくれるから、安心して!」
「えっ……?」
「我らが宮内部長、珍しく朝から走り回ってたよな~」
「大介。そこバラしたらカッコ悪いだろ」
「一人だけカッコつけんなよ。ま、俺ら絡みだしこっちが否定すればそれまでだよ!」
「……ありがとうございます」
「あ、俺的には本当に付き合ってくれてもオッケーなんだけど!」
「もう、佐々木先輩。またからかって……」
私が嫌われたかもと気にしている間に、部長や先輩はフォローしてくれていたんだ。
どんよりと真っ暗だった心が暖かくなる。
私はここに、一人じゃないんだ。
「田代さん、俺ら昼飯ここで食べるけど一緒にどう?」
「えっ、いえ私はっ」
「遠慮しないで~!田代さんは弁当とか手作りしてんの?」
「でもっ」
噂が広がっている間は私と一緒にいないほうがいいんじゃ……?
そう思いながらも佐々木先輩は気にしないようで、華麗に私の腕を引っ張っていく。
三人でオフィスの奥の設計部の空いているデスクに集まり椅子を寄せた。
簡単な部品を組み立てたり仕様を見る時の作業台に使っているらしい。
ここからだと総務部までよく見渡せた。
持っていたランチを広げながら、私は「あっ」と声を呑む。
隣に座る宮内部長を躊躇いがちに見つめると、神妙な面持ちで咳払いした。
「大介に言わなきゃならないことがある」
「なによ?」
「俺のパン屋」
宮内部長はトンッと私の左肩に手を乗せ、ニッコリ微笑んだ。
「……司のパン屋?」
「そう。行きつけの」
「…………ま、待って!そーゆー関係なの!?田代さんフリーだって言ったよね」
「は?はいっ!そんな、滅相もないです」
「どーゆーこと!?」
目を白黒させる佐々木先輩に簡単な経緯を説明する、なぜか意地悪な目つきをした愉快そうな部長。
でもまさか私が作ったパンを、会社で一緒に食べるなんて思わなかった。
恥ずかしくて肩を竦めていると、部長に突然両耳を塞がれる。
「っ!?」
『大介は冗談でチョッカイ出してるんじゃないよな?』
『あぁ、俺はマジだ』
『だと思った』
『なんだよ』
『お前には渡さない』
「えっ?どうしたんですか?」
パッと両手を離されてから戸惑う私に、真顔で見つめ合っていた二人は「なんでもない」と笑った。