初恋ブレッド
食べ終わった後、何か積もる話があるそうで、じっくり一服しようと佐々木先輩が宮内部長に腕を回す。
肩を組んで歩く仲の良い二人を羨ましく思いながら見送って、自分のデスクへ戻った。
私にもあんな友達がいたら心強いだろうなぁ。
だけど……、私を信じてくれる人もいる。
噂に惑わされて怖じ気づいていたらダメだ。
素敵な女性はどんな時も、きっと凛々しく立ち向かう。
それから、宮内部長のおかげか。
平出部長へお茶を出した時には「気にするな」と無愛想で優しい一言。
社長と根岸部長も普通に接してくれて、味方がいる、そう思うだけで穏やかな気持ちになれた。
延々と続くのではないかと思うくらい居心地の悪すぎた午前中が嘘のように、あっという間に終業時刻は訪れた。
残業する人達からは嫌煙されてしまったが、二人だけは私にコーヒーのお代わりを頼んでくれて。
給湯室でニコニコしながらカップを片付け、宮内部長と佐々木先輩にコーヒーを作っていた。
「田代さん、あんな噂されてるのに楽しそうね?」
ビクリとして振り向くと、いつの間にか白坂先輩がいる。
「白坂先輩……」
「平気な顔していられるなんて信じられない。本当、外見は地味でも中身は派手だったのね~」
「……私は、っ」
「部長達が優しいからって調子にのらないほうがいいわよ?」
「調子にのってなんかっ」
「平出部長と佐々木先輩だけじゃ満足できないのかしら。わざとタンコブ作ってまで宮内部長の気を引きたいの?」
「私、そんなことしてません……」
「こんな女に騙されるなんて、宮内部長にもガッカリだわ」
「っ、宮内部長を悪く言わないでください!」
たまらず言い返すと驚いた白坂先輩が後ずさる。
私のせいで悪く言われるなんて、それだけは許せない。
怖くてドクドクと波打つ心臓を抑え睨みつけた。
「なっ、に、あんた……っ!」
白坂先輩がダンッとドアを閉めて出ていった後、長い長い溜め息を吐く。
声を荒げて反論するなんて、初めて……。
フラフラと壁に寄りかかり放心していると、ドアが開いて咄嗟に身構えた。
「……あ、なんだ。宮内部長か」
「なんだよそれ。酷いな」
「はい、すみません……」
宮内部長の顔を見ると安心する。
でも今の私は泣いちゃいそうで、急いで顔を背けた。
「……どうかした?」
「なんでもないです!部長はどうしたんですか?」
「コーヒー遅いから」
「あっ、そうだ!冷めちゃったので淹れ直して持っていきますねっ」
わたわたとマグカップを持つ手を、部長が唐突に止めて私の頬をむにっと摘まむ。
「……美琴?」
「なんれすか」
「なんかあったら、言えよ」
「え……」
私また、部長に心配かけていたのかもしれない。
もしかしたら、様子を見にきてくれた?
自惚れでもいい。
今できるとびきりの笑顔を作って、元気よく「ありがとうございます!」と叫んだ。
噂なんかに、負けない。
肩を組んで歩く仲の良い二人を羨ましく思いながら見送って、自分のデスクへ戻った。
私にもあんな友達がいたら心強いだろうなぁ。
だけど……、私を信じてくれる人もいる。
噂に惑わされて怖じ気づいていたらダメだ。
素敵な女性はどんな時も、きっと凛々しく立ち向かう。
それから、宮内部長のおかげか。
平出部長へお茶を出した時には「気にするな」と無愛想で優しい一言。
社長と根岸部長も普通に接してくれて、味方がいる、そう思うだけで穏やかな気持ちになれた。
延々と続くのではないかと思うくらい居心地の悪すぎた午前中が嘘のように、あっという間に終業時刻は訪れた。
残業する人達からは嫌煙されてしまったが、二人だけは私にコーヒーのお代わりを頼んでくれて。
給湯室でニコニコしながらカップを片付け、宮内部長と佐々木先輩にコーヒーを作っていた。
「田代さん、あんな噂されてるのに楽しそうね?」
ビクリとして振り向くと、いつの間にか白坂先輩がいる。
「白坂先輩……」
「平気な顔していられるなんて信じられない。本当、外見は地味でも中身は派手だったのね~」
「……私は、っ」
「部長達が優しいからって調子にのらないほうがいいわよ?」
「調子にのってなんかっ」
「平出部長と佐々木先輩だけじゃ満足できないのかしら。わざとタンコブ作ってまで宮内部長の気を引きたいの?」
「私、そんなことしてません……」
「こんな女に騙されるなんて、宮内部長にもガッカリだわ」
「っ、宮内部長を悪く言わないでください!」
たまらず言い返すと驚いた白坂先輩が後ずさる。
私のせいで悪く言われるなんて、それだけは許せない。
怖くてドクドクと波打つ心臓を抑え睨みつけた。
「なっ、に、あんた……っ!」
白坂先輩がダンッとドアを閉めて出ていった後、長い長い溜め息を吐く。
声を荒げて反論するなんて、初めて……。
フラフラと壁に寄りかかり放心していると、ドアが開いて咄嗟に身構えた。
「……あ、なんだ。宮内部長か」
「なんだよそれ。酷いな」
「はい、すみません……」
宮内部長の顔を見ると安心する。
でも今の私は泣いちゃいそうで、急いで顔を背けた。
「……どうかした?」
「なんでもないです!部長はどうしたんですか?」
「コーヒー遅いから」
「あっ、そうだ!冷めちゃったので淹れ直して持っていきますねっ」
わたわたとマグカップを持つ手を、部長が唐突に止めて私の頬をむにっと摘まむ。
「……美琴?」
「なんれすか」
「なんかあったら、言えよ」
「え……」
私また、部長に心配かけていたのかもしれない。
もしかしたら、様子を見にきてくれた?
自惚れでもいい。
今できるとびきりの笑顔を作って、元気よく「ありがとうございます!」と叫んだ。
噂なんかに、負けない。