初恋ブレッド
接客に入った白坂先輩の代わりに、急ぎだと言っていた仕事を進める。
内容は昨年度の資料を今年度用に書き換えるだけ、伝票の数字を正しく打ち込むだけだと言われた。

「失礼します」

小声で断り白坂先輩のデスクに向かう。
PCを見るとエクセルが開かれたままですぐに続きがわかった。
先輩の仕事を引き継いでやっているわけだから、なおさらミスはできない。
伝票の数字に画面の数字、交互に何度も睨み合う。

三十分ほどして白坂先輩が戻ると、私のやったところまでを簡単に説明して席を立つ。
手伝いのほうはやっぱり断られてしまい、ちょうど終業時間になり私は片付けを始めた。


……白坂先輩、まだ終わらないのかな。
カップを洗い終わりオフィスへ戻った頃には、総務部はもちろんほとんどの社員が退勤していて。
先輩を残して先に帰るのもなんだか気が引けてしまった。

「あの、白坂先輩やっぱり手伝い……」

「っ、田代さん酷いっ!なんでこんなことするの!?」

「…………え!?」
「私のデータ消したでしょ!」
「は?」

データを消したって……、どういうこと?
私は何が何だか理由もわからず、戸惑うばかり。
そうしているうちに、白坂先輩は泣き出してしまった。

まだオフィスに残る社員が何事かと集まってくる。

「急ぎの資料だって言ったのに、全部消すなんてっ!」
「どういうことですか……?」
「宮内部長の手伝いができなかったからって、仕事で嫌がらせするのは卑怯よ!」
「……嫌がらせ?」

突然の叱責を受け頭が真っ白になる。
黙っていないで、すぐに大声で否定すべきだった。
それで変わったかはわからないけれど、私達を囲む社員の非難の矛先は私。

「私なにも……」

睨まれたり疎まれたりして、絞り出す声も小さくなる。
皆ハッキリ話すこともできない私に苛立っているのがわかった。
白坂先輩のデスクでPCをいじっていた私を見たという証言も出ると、それは噂が拍車をかけてねじ曲がった事実になっていく。
なかなか認めない私に「こっちは仕事してんのに勘弁してくれよ」と誰かが溜め息を吐いた。

申し訳なくていっそのこと謝ってしまおうかと俯いた先に、目に入った部長のカーディガン。
宮内部長は私を信じてずっと励ましてくれた、支えてくれた。

私は悪いことなんて何もしていない。
理不尽なことは言い返す、強い人になるんだ。


「……私、そんなことしてません!」
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