初恋ブレッド
~宮内部長のジャムパン論~



「なんか田代さん暗くね?ケンカ?」
「いや……?」

妙に暗い美琴がトボトボとオフィスへ入っていく。
首を捻り持っていた缶コーヒーを煽ると、残っていた白坂が溜め息を吐いた。

「あそこまで気にしなくてもいいのに……」
「理子、お前なんか言ったな!」
「なによっ。あの子ウブすぎんのよ!」
「そこがいいんだろ!」
「はぁ?まだ忘れられないんなら別れるけどぉ?」
「そういう意味じゃねーの!」

散々お互いに『無理』だと騒いでいたくせに、アッサリ付き合いだした大介と白坂。
傷を舐め合ううちにそういう仲になったとかで、うるさい痴話喧嘩を毎日聞かされている。
何だかんだ言いながら二人とも美琴を可愛
いがっていて、友達ができたと本人も嬉しそうで何より。
コーヒーを飲みながら遠目に見ていると、白坂にギラッと睨まれた。

「フン。宮内部長も押し倒すくらいしたらいいんですよ!」
「ゲホッ」

一体何をあいつに吹き込んだんだ。

「おい理子、そういうのはお前が口出すことじゃ……」
「だって私みたいに綺麗になりたいって言うから!」
「田代さんが?」
「私なんかじゃ部長に釣り合わないって、なんかもう健気なんだもの!」
「田代さん可愛いのになぁ」
「だから仲が深まれば自信もつくでしょ?」
「確かに。司、さっさと抱いてやれ」


「…………お前ら、余計なお世話だ」

この二人、疲れる。

振り切ってオフィスのドアを開けると、デスクで小さくなりショボンと項垂れる美琴。
自信なさげなその小さな背中が自分のためだと思うと、申し訳ないが可愛いくって顔がニヤけた。

別に俺も、いつまでも大目に見ようとは思っていないんだけどなぁ。
今は今でウブなトコロを楽しんでいるというか。

というか、仕事でまともに会えてないからそっちのが不安だし。
眠りから覚めた日曜日の昼下がりに誘うのも悪いし、俺の部屋汚すぎて呼べないし。


俺も俺で、自信はない。
< 86 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop