初恋ブレッド
~宮内部長の恋愛事情~
毎日毎日、朝から晩までウザイな佐川専務。
おかげで集中するためだけに、かなりの労力を注ぎ込んでる。
大介なんてガン見してたけど、俺そんなんで済まなそうだから。
無関心なフリをして、自分に言い聞かせて、仕事をするのだが……。
美琴さん、押しに弱いから凄い心配。
作業台でサンプルの仕様を見ていると、佐川専務の登場で賑やかになる総務部。
俺のデスクからだと間の営業部が影になって見えないが、オフィス奥の角にあるこの場所は別。
ここからだと丸見えなんだよな。
工場へ行くと言いオフィスを出た美琴を、案の定追いかける専務に怒涛の溜め息を吐いた。
俺の管轄外に出るなよ。
力を入れすぎて指先からポロッと逃げたネジに舌打ちをする。
「つーかさくん」
「あ?」
「笑顔が硬いな司くん、ヤキモキしてますねー」
「イケメンじゃない大介くんこそ、目が据わってますよー」
「うるせーよ……。これ製造に持ってけ」
「は?」
投げやりに押しつけられたダンボール箱。
中身は大したもんじゃないけど、と大介が言った。
「部長をパシリに使うな」
「バーカ。好きでもない女取られんのとは話が違うだろ」
「……お前ね」
そーいやそんなことあったなぁなんて、受け取ったダンボールを抱え有り難く工場へ向かう。
奴との仲は俺が入社した当初から最悪で。
色々あったけど結論としては、単純に、何事においても、究極的に、ウマが合わない人間だということ。
専務だろーが次期社長だろーが文句はないから、せめて美琴にチョッカイを出さないでほしい。
「はぁぁっ」
どす黒い気分に陥って荷物を届けた矢先。
インチキくさい笑顔で美琴の腕を掴み、嫌がっても絶対に離そうとしない光景を目の当たりにした。
カチンときてなりふり構わず一歩踏み出すが、すかさず根岸部長に捕まってしまう。
その時の俺は、大介に言えたもんじゃないくらい目が据わっていたと思う。
振り向いた瞬間、部長が一歩引いた。
それでもペラペラと飛び出す近況報告なんか正直どうでもいいのだが。
仕方なく適当に相槌を打ちながら、無意識にでも拾ってしまう、やわらかな彼女の澄んだ声。
……と、胡散臭い専務の声。
「美琴ちゃん、思い出してくれたかな?」
「あ、あの。よく覚えてないんですけど、多分カフェで落とし物を……」
「そう!嬉しいなぁ。あの時は急いでて、お礼もできずにごめんね」
「お礼なんて、拾っただけですから。気にしないでください」
「今度ゆっくりお茶しようか。二人きりなら気兼ねないでしょ?」
「え?無理です」
「あ、そっか。彼氏いるんだってね?」
「はいっ!」
随分嬉しそうだな、声が飛び跳ねたぞ。
ククッと笑いを堪えたのは一瞬で、専務のアホな返答に思考が止まる。
「僕は別に気にしないよ。ディーティング期間だと思って気軽に、どう?」
なんだと。
「……でぃーてぃ?ん?」
「お試し期間さ。付き合う前にデートしたりキスしてみないと相性なんてわからないでしょ?」
「…………言っていることがよくわかりません。私忙しいので失礼します!」
あ、声のトーンが下がった。
素直で可愛いなコノヤロー。
律儀にペコリと頭を下げて、工場を一人スタスタと出ていく強気な美琴に胸を撫で下ろす。
しかし、セクハラ専務の処遇はどうすべきか。
眉間に皺を寄せ考えながら、根岸部長の話にまた適当な相槌を打つ。
わりと仕事中心で生きていた俺が、一人の女から目が離せなくなるなんて驚きだ。
気づけば仕事よりも視界に捉えている彼女。
社内恋愛って、危険なんだな……。
毎日毎日、朝から晩までウザイな佐川専務。
おかげで集中するためだけに、かなりの労力を注ぎ込んでる。
大介なんてガン見してたけど、俺そんなんで済まなそうだから。
無関心なフリをして、自分に言い聞かせて、仕事をするのだが……。
美琴さん、押しに弱いから凄い心配。
作業台でサンプルの仕様を見ていると、佐川専務の登場で賑やかになる総務部。
俺のデスクからだと間の営業部が影になって見えないが、オフィス奥の角にあるこの場所は別。
ここからだと丸見えなんだよな。
工場へ行くと言いオフィスを出た美琴を、案の定追いかける専務に怒涛の溜め息を吐いた。
俺の管轄外に出るなよ。
力を入れすぎて指先からポロッと逃げたネジに舌打ちをする。
「つーかさくん」
「あ?」
「笑顔が硬いな司くん、ヤキモキしてますねー」
「イケメンじゃない大介くんこそ、目が据わってますよー」
「うるせーよ……。これ製造に持ってけ」
「は?」
投げやりに押しつけられたダンボール箱。
中身は大したもんじゃないけど、と大介が言った。
「部長をパシリに使うな」
「バーカ。好きでもない女取られんのとは話が違うだろ」
「……お前ね」
そーいやそんなことあったなぁなんて、受け取ったダンボールを抱え有り難く工場へ向かう。
奴との仲は俺が入社した当初から最悪で。
色々あったけど結論としては、単純に、何事においても、究極的に、ウマが合わない人間だということ。
専務だろーが次期社長だろーが文句はないから、せめて美琴にチョッカイを出さないでほしい。
「はぁぁっ」
どす黒い気分に陥って荷物を届けた矢先。
インチキくさい笑顔で美琴の腕を掴み、嫌がっても絶対に離そうとしない光景を目の当たりにした。
カチンときてなりふり構わず一歩踏み出すが、すかさず根岸部長に捕まってしまう。
その時の俺は、大介に言えたもんじゃないくらい目が据わっていたと思う。
振り向いた瞬間、部長が一歩引いた。
それでもペラペラと飛び出す近況報告なんか正直どうでもいいのだが。
仕方なく適当に相槌を打ちながら、無意識にでも拾ってしまう、やわらかな彼女の澄んだ声。
……と、胡散臭い専務の声。
「美琴ちゃん、思い出してくれたかな?」
「あ、あの。よく覚えてないんですけど、多分カフェで落とし物を……」
「そう!嬉しいなぁ。あの時は急いでて、お礼もできずにごめんね」
「お礼なんて、拾っただけですから。気にしないでください」
「今度ゆっくりお茶しようか。二人きりなら気兼ねないでしょ?」
「え?無理です」
「あ、そっか。彼氏いるんだってね?」
「はいっ!」
随分嬉しそうだな、声が飛び跳ねたぞ。
ククッと笑いを堪えたのは一瞬で、専務のアホな返答に思考が止まる。
「僕は別に気にしないよ。ディーティング期間だと思って気軽に、どう?」
なんだと。
「……でぃーてぃ?ん?」
「お試し期間さ。付き合う前にデートしたりキスしてみないと相性なんてわからないでしょ?」
「…………言っていることがよくわかりません。私忙しいので失礼します!」
あ、声のトーンが下がった。
素直で可愛いなコノヤロー。
律儀にペコリと頭を下げて、工場を一人スタスタと出ていく強気な美琴に胸を撫で下ろす。
しかし、セクハラ専務の処遇はどうすべきか。
眉間に皺を寄せ考えながら、根岸部長の話にまた適当な相槌を打つ。
わりと仕事中心で生きていた俺が、一人の女から目が離せなくなるなんて驚きだ。
気づけば仕事よりも視界に捉えている彼女。
社内恋愛って、危険なんだな……。