君の横顔
子分の一人が尋ねると、友哉は胸をはってこう言った。
「おおぜいでたった一人をいじめたりするのは、すっごい『ひきょう』で世界一サイテーなことなんだって、うちの父ちゃんが言ってたぞ。お前らみんな『ひきょうもの』だっ!」

友哉がいじめの張本人の顔の真ん中をビシッと指さすと、そいつらはすっごくおびえた顔で後ずさった。

「これ以上ひきょうなことしたら、俺が許さないからな!」

とどめのひとことに、奴らはわらわらと逃げ出していった。

逃げてく奴らの後ろ姿を見送ってから、友哉は僕の方を振り向いて、ニコッと笑った。

いつもはすごくキリッとしていてカッコいい顔なのに、笑うととてもひとなつっこくて、子犬みたいだな、と思った。

「えーっと、お前……名前なんだっけ?」

名前も知らないのに助けてくれたんだ? それが、かえって嬉しくて、僕はまた泣きそうになる。

「うぅっ……おっ、おお、大野…あゆみ……」

「ちょっ、泣くなって、いじめっ子の奴らは、もうやっつけたから、な、なっ……」

頭を撫でながらなぐさめてくれるのが嬉しくて、僕はしばらくの間、泣き続けていた。
………………

「ちょっとぉ、大野先輩聞いてます? 長谷川先生が呼んでますからぁ」

おっと、つい思い出に浸ってしまい、呼びに来ていた高橋の存在を忘れてしまった。

「わかった。先に行って、すぐ行くからって先生に言っといて」

「わかりましたぁ」

高橋が戻っていくのを見届けて、僕もゆっくりとスケッチ道具を片付け始める。

「うわっ」

急に突風が吹いてきて、スケッチブックを落としてしまった。

風でパラパラとめくれて、終わりの方のページが現れる。

そこには、いくつもいくつも、同じ横顔ばかりが描かれていた。

マウンドで投球動作に入る前の、友哉の真剣な横顔。……僕の一番好きな友哉だ。

大きくページいっぱいに描いた横顔を見つめていた時だった。
「おい、歩。そんなとこで何してるんだ?」

「え?」

思いがけない声に慌てて顔を上げた。

うそ? なんでこんなとこに友哉が? 

外野フェンスを隔ててはいるけれど、ほんの数10センチの所に友哉の笑顔があった。

震える指で焦りながらスケッチブックを閉じる。

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