君の横顔
こんな横顔のオンパレードなんて見られちゃったら、確実に引かれる。


「な、なんで? 投球練習してんじゃなかったの?」

「ん、ちょっと走り込みして来ようと思ってさ。今日、イマイチ肩の調子が良くなくって」

友哉は少し肩をすくめるようにしながら言った。

「え、だ、大丈夫なの?」

なんか声が裏返ってる。なんでこんな緊張してるんだ、僕。

友哉は同じクラスだし、幼なじみなんだし、もっと自然にしゃべらなきゃおかしいよ。


「筋肉が張ってるから今日は投げ込みやめたほうがいいって、監督さんが言ってるだけで、別にたいしたことじゃないよ」

僕の声が裏返ったことなんて、友哉は全然気にしてない。

誰に対しても向ける(そして時々誤解させる)ひとなつっこい笑顔を浮かべている。

「最近ずぅっと外野んとこに人がいるの、誰だろうって思ってたら、歩だったんだな」

気軽に「何してるの?」と問う友哉に、僕も気軽に「スケッチ」と答えた。
スケッチブックを抱えて立ち上がると、友哉は尋ねた。

「今日はもう帰るのか?」

「えっと、顧問の先生に呼ばれてて美術室まで戻るんだ」

「校舎まで戻るんだったら、ちょっと一緒に走らねえ?」

「え? あ、うん、いいよ」

本当は友哉と同じペースで走るなんて、僕には無理だってわかってるのに。特に今日はちょっと風邪気味だし……

でも、無理してでも友哉と一緒にいたかった。

どうか、僕の胸の奥に住む魔物が、今日だけは顔を出しませんように。

僕に合わせてくれてるのか、ゆったりしたペースで友哉は走り出した。

それでも、僕の走り方と友哉とでは全然違う。

軸のブレない足の運び、しなやかな腕の振り……隣で走りながら、思わず見とれてしまう。

澄んだ瞳でまっすぐ前を見つめて走る、その端正な横顔にも。

必死で走りながら、ずっと友哉を見つめていたら、横顔が不意に正面向きに変わった。

「俺、前からずっと気になってたんだけどさ」

「え、なに?」

急に尋ねられて胸がドキドキする。

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