君の横顔
「お前、なんでこの学校に来たんだよ?」

冷たい水でも浴びせかけられたみたいに、全身が凍りついた。

『なんでこの学校に来たんだよ?』…って、もしかして、お前なんかに来て欲しくなかった…っていう意味なの?

頭の中で、ネガティブな考えがぐるぐる回ってる。胸が苦しくなってきた。

「歩だったら、もっと頭いい学校だって行けたはずなのに…。中学ん時、ずっとクラスでトップだったじゃん」

あ、そういうことか。ホッとして自然に頬が緩んだ。
「家から近かったから」

そう言ってニィッと笑ってみせた。

嘘はついてない。歩いて十五分で通える学校なんて、他にないもんね。…本当の理由は違うけど。

「おっまえ、そんな理由で学校決めんなよ」

友哉があきれたように肩をすくめた。

「友哉こそ、なんでこの学校にしたの? もっと野球強豪校とか行けたでしょ?」

そう問い返すと、友哉もニィッと笑ってみせた。

「俺も、家から近かったから」

そりゃそうだ、僕と友哉は小学校も同じ、ご近所さんなんだから。
「……ていうのも理由のひとつだけど、やっぱ野球部が急成長中だったのが大きいかな。専用グラウンドも去年できたし、来年の春の甲子園あたり、マジで狙えると思う」

走りながら、真剣にそう言う友哉の横顔に、僕はまた見とれていた。

とっくに知ってたよ、友哉がこの学校を受験した理由なんて。

だって僕は、友哉がこの学校にするだろうって思ったから、ここを受験したんだ。

先生や両親には猛反対されたけど「近いから」って押し切ったのは、友哉のせいなんだからね。

そんなこと、口が裂けても本人には言えないけど。

「秋の大会で、優勝したら、春の選抜に、出られるんだっけ?」

ちょっと苦しくなってきたけど、走りながら尋ねる。

「夏の大会と違って、県大会優勝だけじゃ甲子園に出れないんだ。関東大会ベストフォーくらいには残らないとな」

「へぇー、けっこう、厳しい、ん、だ」

あれっ、だんだん喋りづらくなってきた。

僕に合わせてこんなスローペースで走ってくれてるのに、まさかこれでもついて行けない?

< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop