君の横顔
まだ、野球部グラウンドの周囲を回って、道路を渡って、校庭に入ったばかりのところなのに。

最低でも校舎の玄関までは笑顔で走って、友哉に「じゃあねっ」って手を振って別れようと思ってたのに。

もう隠しようがないほど、胸がゼイゼイいって、足がガクガクする。

つまずいて地面に膝をついてしまった。

「どうした、あゆみ!」

二、三歩行き過ぎた友哉が、あわてて戻ってきてくれた。

「…だいじょ、ぶ、だから……」

友哉は走り込みの途中なんだから。

僕のせいで、足を止めたりしちゃ、いけないんだから。

そう言いたいのに、息が苦しくて、言葉が出ない。かわりに、たてつづけに咳が出た。

「全然、大丈夫じゃねーじゃん!」

友哉の腕が背中に回されたのを感じた。

「ゆぅ…や…?」

ふわっと体が宙に浮いた。

膝の裏も友哉の腕で支えられていて……僕は友哉に軽々と抱き上げられていた。

「ごめ…ん……」

ごめん、走り込みの邪魔して、ごめん…。

「しゃべんな。苦しいんだろ」

見上げると友哉の顔が心配そうに曇っている。

そんな表情、友哉には似合わないのに……ぼくがそんな表情にさせてるんだね。ほんと、ごめん…。

ごめん、ってばかり思ってるのに、体は思うように動かなくて。

抱き上げられて運ばれながら、僕は目を閉じて、友哉の胸に頬を寄せていた。

力強いけど、なんだか不安げに早い、心臓の鼓動が聞こえる。

その音を聞きながら、僕はいつのまにか気を失っていた。



< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop