君の横顔
「ごめんな…あゆみ…」

歩の寝顔に向かって、そっとつぶやく。ベッドの上の小さな手を、両手で包み込んだ。

「ぅ…んん……」

かすかに呻き声をあげて、歩が頭を左右に振った。

「歩、苦しいのか?」

目をつぶったまま、うわごとみたいに言う小さな声が聞こえた。

「ゆう、や…ごめ…ん……」

なんでお前が謝んだよ。悪いのは俺なのに。

ガチャ! 病室のドアが開く音がした。

あわてて歩の手を離す。

入って来たのは保健の青木先生だった。

「ごめんね桜川くん、付き添いまでお願いしちゃって。もうすぐ大野くんの親御さんも来られるから、もう大丈夫。桜川くんは部活に戻ってね」

「あ…」

そうだった、走り込みの途中で歩を保健室に連れてって、そのまま救急車に一緒に乗ってきちゃったんだった。



「でも…できれば歩が目覚めるまで……」

ここに居たい…って思うのと同時に、ここに居たくない、とも思った。

目を開けた時、俺なんかが側にいたら、歩はどんな顔するだろう。

俺のせいで倒れてしまったんだ。

きっと俺の顔なんか、見たくもないに違いない。

「じゃあ、俺、部活に戻ります」

先生に頭を下げて、病室のドアを開け、外に出た。


明日からはまた、そっと見守るだけの生活に戻ろう。

俺なんか関わらないほうが、歩は平穏に暮らしていけるんだ。

ずっと歩の笑顔を見ていたいけど、その笑顔が自分に向けられることがあるなんて、期待しちゃいけない。

今までどおり、あまり接点もないただのクラスメイトとして、遠くから見守っていくのがいいんだ。

どうせ秋季大会に向けて忙しくなっていくんだし……今のこの想いも、きっといつか静まる。


病院の玄関を出ると、俺は学校に向かって走り始めた。


< 8 / 13 >

この作品をシェア

pagetop