月夜の夢
5年前。
小学5年生だった私、一ノ瀬灯はクラスの女子から少し浮いていた。
少し、というのは困らないレベルの友好関係はあったけれど、一緒に過ごす程の親友はいなかった。
簡単に言うと「一ノ瀬灯とは深く関わるな」という空気があったのだ。
そんな空気などお構いなしに私にずけずけと構ってくるのが1人だけいた。
白沢明。
隣の家に住む、いわゆる幼馴染という奴だった。
「あかり!放課後地区センター行こうぜ!」
1人で本を読んでいる私にいつも満面の笑みで話しかけてきた。
明るくてリーダー格の明は人気者で、いつもきらきらと輝いて見えた。
私はそんな彼が好きだった。
あの日も、明に誘われて地区センターに行った。向かい合ってオセロをしていた。
結果は私の圧勝。
負けた明は机に身を投げ出した。
「また負けたー。卓球とバトミントンなら絶対負けねーのに!」
ふくれっ面で手足をばたつかせる明。
「明はスポーツできるもんね。私はあんまりできないから、卓球とかは負けちゃうよ。」
「でもオセロでも勝ちてー!」
「明にオセロでも負けたら、私なんにも勝てなくなっちゃうよ。」
「えー、じゃあなんかコツ教えてよ一ノ瀬せんせー。」
「教わるなら火憐お姉ちゃんの方がうまいよ?」
火憐お姉ちゃんは、私の3つ上のお姉ちゃんだった。明も私もお姉ちゃんのことが大好きだった。
「え、火憐ねーちゃんオセロ強いの?」
「強いよー。私いっつも負けちゃうもん。」
「じゃあ、こっそり教わってあかりにリベンジしてやろっかなあ。」
「もうこっそりじゃないじゃん」
二人であはは、と笑いあった。
その時、外からサイレンが聞こえた。
明は車好きで、その時も窓を向きながら
「消防車だ!おれ、サイレンだけでなんの車かわかるようになったんだ!」
ときらきらした笑顔で言っていた。
「消防車ってことはどこかで火事が起きたのかなあ?」
「どうなんだろ。まあ学校の方じゃなかったし、おれたちには関係ないんじゃない?火事だったら消防士さんがなんとかしてくれてるって!」
「あ、明って消防士さんになりたいんだっけ?」
「おう!だって消防士って1番ヒーローみたいな職業じゃん?命の危機にあった人を助け出す!みたいな。」
へへっと笑う明に、私はあの時なんと返そうとしたのかはもう忘れてしまった。
「あきちゃん、あかり、やっと見つけた!」
同じクラスの田島くんが勢いよく走ってきた。
「こんなとこでオセロしてる場合じゃねーよ!二人の家が…家が燃えてるんだ!」
この時の田島くんの顔と、明の困惑の声はまだはっきりと頭に残っている。
急いで家に戻ってきたが、もうすでに遅かった。