月夜の夢

キモチとジカン

あの火事から5年経った。亡くなったのは私の母と、火憐お姉ちゃんと、明の母親。結局出火原因は分からずじまいだった。私はあの日以来、火が怖い。もしかしたら自分も明みたいに心が消えてしまうかもしれないと思ったから。
今、私たちは高校二年になって半年が経っていた。
近所の優れているとも劣っているとも言えない普通の高校に入った私と明は、相変わらず同じクラスで、隣の席だった。
ちらと横の明の顔を見る。
目が隠れるほど長い前髪。
色素が欠けているような白い肌。
あの日から、彼は随分と変わってしまった。あの後明の父は、明を捨てた。数日の間、泣き止まず部屋に引きこもっていた明が気がついた時、父の荷物は家から忽然と消えていた。近所に住む明の祖父母が心配して様子を見に行くと、一人でカップ麺をすする明がいたという。
明は祖父母と暮らすことになった。
彼はこのことを、私に淡々と報告した。
中学高校を共にしたとはいえ、もうそこに昔のきらきらした明はいなかった。
今の明は、暗くて無愛想だ。
「じゃー、問1。白沢、答えられるか?」
先生が明を当てた。
「わかりません。」
低くて小さな声で即答する。
「おいおい。これ基礎問題だぞー?しっかり復習しとけよー?」
「すみません」
教室は静かだ。
大半が安らかな昼寝に堕ちている。
そんな中、人形のように微動だにしない彼の横顔は、何を考えているのかわからなくて、なんだか恐ろしいものに思えた。
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