女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
長年の派遣生活で身に着けた「人の仕事は奪い取ってでもやれ」をここでも敢行した結果、社員さん並の管理業務も任されるようになっていた。パートでそこまでしなくても・・・とは自分でも思うが、元彼に仕返しを企んだ為に嘘をついてもぐり込んだこの売り場で、保険もつけて貰え、しかも2ヶ月前には時給も上げて貰ったのだ。
恩は常に意識すべし。
「おはようございます」
11時半、遅番の大野さんが出勤してきた。情けないことに、今日はまだレジは開いていない。店の前を通るお客様ですら、まだ4人しかいなかった。
開店休業状態の売り場を困った微笑で手で指し示すと、大野さんはあははと笑った。
「閑散期だし、仕方ないわよ。品だしもないなら、いつでも休憩どうぞ」
・・・まだ、お腹はすいてないけれど・・・。振り返ってチラリと鮮魚売り場の方へ目をやるけど、背の高い影は見当たらなかった。
「まだ来てないみたいよ。桑谷さんの名札変わってなかったもの」
私の視線に気付いて同じように鮮魚の方へ目をやりながら、大野さんが言った。
名札が変わってない?あれ、でも今日遅番で出勤だって・・・。鮮魚のシフトは遅番だと11時半じゃなかったっけ?
首を傾げる。百貨店の店員入口横の出勤ボードにかかっている販売員の名札を、出勤したらひっくり返すのが決まりだ。大野さんはそれを言っているのだ。
「・・・ま、いっか」
彼は鮮魚の責任者だし、あちらは変則シフトもあるから今日はもっと遅い勤務時間なのかもしれない。
「じゃあ、お昼先に頂きますね」
頷いて、大野さんはガッツポーズを作った。レジは私があけてみせる、って。可愛いおばちゃんだ。