女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
第6章 決意
1、細川と太郎さん
全員で小さな部屋に移動する。
居間に入って、二人のうち背が高い方の眼鏡の男性が、くるりと振り返ってにっこりと笑った。
「滝本です。宜しく、小川さん。お噂はかねがね」
言いながら、自分の後から部屋に入った桑谷さんを面白そうに見る。
「・・・彰人を手の平で転がせる人がいるとは思いませんでしたよ」
私もにっこりと笑顔を見せて返事をする。
「まさか。そんな恐ろしいこと出来ません」
その間当の本人である桑谷さんは苦虫を踏み潰したような顔をしていた。
私はじっくりと滝本と名乗った男性を観察した。
成る程、この柔和な顔で笑う眼鏡氏が昔のパートナーで、今では調査会社の社長か。何と言うか・・・食えない外見をしている。裏がちっとも見えない笑顔に、落ち着いた声。私なら、近づかないようにするだろう。
そして――――――――
私はもう片方の男性の方を向く。
中肉中背、上から下まで真っ黒な服装の、これといって特徴のない顔。
先ほど、細川と倉庫にいた男だ。ヤツが私のストーカーだと紹介した男。
ゆっくり微笑んで、その人は言った。
「・・・先ほどはどうも。僕のことは太郎と呼んでください」
私はぱちくりと目を瞬いた。
桑谷さんと滝本さんがそれを興味深げに眺めている。
「・・・太郎、さん」
「はい。苗字はありませんので聞かないで下さい。それよりも、僕はびっくりしました。何も判らずにあんなところに連れてこられて男二人に挟まれて、あなたは全く怯えてませんでしたね」