女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
私はつい声を出して笑った。
「ムカついてたんです」
私の返答に男性陣が苦笑した。
私は太郎と名乗った男を見詰めた。・・・苗字がないって、そんなバカな。あからさまに偽名だと判るし・・・太郎だって。
桑谷さんからあの日、調査会社に協力しているこの男性のことは聞いていた。フリーランスで動く「何でも屋」で、この人が細川の動きを探ってくれてるはずだった。
まもなく仕掛ける罠の全部を私が知っていると演技をしなければいけなくなり、それでばれると水の泡なのでと私は概要だけを教えて貰ったのだ。
とにかく、君が襲われる様なことがあれば、その時は必ず警察の手が届くようにしてあるから、と。
どんなことになっても守るから、と。
私の小さな居間で円座を組み、話を始めようと桑谷さんが言うので、ちょっと待ってと言ってから台所で氷水を作った。
「腫れてきてるわ、まず冷やさせて」
男3人が氷水に右手を突っ込んで唸る私を見ていた。
桑谷さんがぼそりと言った。
「・・・あまり聞きたくないが、どうして右手が腫れるんだ?」
隠していたってどうせ生田刑事からバレるだろう。私は肩をすくめて言った。
「細川を殴ったからよ」
え?という驚いた顔をした滝本さんと、口元を歪めて笑ったらしい太郎さん、桑谷さんはやっぱりな、と首を振っていた。
氷水を作った桶を持ったまま居間に引き返した。
「お待たせしました。どうぞ」
私が座るのを待って、滝本さんが話し出した。案外高い声で少し意外だった。