女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
玄関で再び頭を下げて見送り、居間に戻ってきてペタンと床に座り込んだ。
・・・・・あああ~・・・疲れた・・・。
でもとにかく終わったのだ。細川の変態野郎は現行犯で捕まった。出所してから間もない再犯で、刑期は更に延びるかもしれない。
これから警察でしなきゃならない色々なことを思うとうんざりしたけど、とりあえず繁忙期に入る前に桑谷さんとのべったり生活から離れられると思うと嬉しかった。
とにかく、そこが。
「――――――怪我させて悪かった」
桑谷さんが後ろから言った。声からして、かなりの凹み具合とみた。
私は振り返って、眉をしかめる。
「もう、しつこいわよ。生田刑事はちゃんと助けようとしてくれたのを私が止めたんだから、もういいでしょ。大事なのは――――」
自分の胸を指差す。
「今、私が生きてここにいることでしょう?」
彼は辛そうな目を両手で隠して顔をごしごしと擦ったあと、うん、と頷いた。
「あのバカ野郎には指一本だって触れられてない。切り傷だけで、これはまた治る。もうストーカーは居ない。私たちは元に戻る」
箇条書きで言うと、一々頷いていたけど、最後のところでぴたりと止まった。
「・・・・元に戻る、とは?」
声に慎重さが聞き取れた。
「うん?私はここに住む。あなたは気が向いた時にここに来るけど、基本的には自分の部屋で暮らす。これから繁忙期だし、年明けるまでは頻繁には無理だと思うけどね」