女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
私が言うと、彼は居間の入口のドアにもたれ掛った。そしてゆっくりと口を開く。
「―――――ここに二人で住むのは駄目なのか?」
「狭いから、ヤダ」
私は即答した。そして手振りで私の小さな1DKの部屋を示す。この1ヶ月、一緒に居て判ったけど、彼と二人でいるにはこの空間では私には狭すぎる。ハッキリ言って気が狂いそうだった。
彼は私の返事に首を傾げて、唇を人差し指で撫でた。
「・・・もっと大きい部屋を借りたら?もしくは、買うか」
私は立ち上がって、彼の元へ。
上げると痛む左腕は下ろしたまま右腕を彼の首筋に巻きつけて抱きしめた。
「・・・それは、結婚してからの話。まだ私が貰った半年はあと2ヶ月もあるのよ」
壊れ物を扱うかのようにそっと抱きしめ返して、彼が耳元で言った。
「君を離したくないんだ」
「・・・私を手に入れたければ、今は我慢して頂戴。焦りは禁物よ」
黙ったままで抱きしめていた。
お互いの鼓動の音が聞こえるようだった。
やがて顔を上げて彼が言った。
「・・・・判った、俺、部屋に戻るよ」
静かな目をしていたけど、口元は笑っていた。
私はにっこりと笑って、彼から身を離し、でも、帰る前に、と言葉を出した。
「ご飯作ってくれない?めちゃくちゃお腹空いてるんだけど」