女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 店員食堂で、一人でぼーっとお弁当を食べる。

 桑谷さんと婚約して、彼は持ち家で家にお金がかからないからと、ほぼ同棲であるのを理由に私の家賃の半分を払ってくれている。そして食費や光熱費と毎月お金をいれてくれるので(つってもまだ2ヶ月目に入ったとこ)、私は貯金まで出来つつあるのだけれど、相変わらずお弁当組みだった。

 身についた節約根性は簡単には抜けない。

 百貨店の照明が眩しくて疲れた目を閉じて休める。

 暇があって考えるのは、結婚の二文字。

 9月にプロポーズされた時、最初は受けるつもりでいたのだ。だが、親に話そうと思いだして、ふと、このままでは両親からの彼への質問に何も答えられないと気付いた。

 髪を切って不安定な彼の精神状態のこともあった。

 だから、半年の猶予をおいたのだ。敢えて。

 来年の1月で、私は31歳の誕生日を迎える。正月明けたら一度実家に帰るつもりではあるし、その時に両親に結婚を考えている男性がいるのだと言うつもりだった。

 友達からの結婚式の招待状は30歳になる前にピークを迎えた。そして、既に離婚第一号も友達から出ている。

 私に至っては、無理に急ぐ必要もないかってな心境だった。

 今年の5月までは守口斎とまだ付き合っていたし、その後はそれどころじゃない展開だった。

 ようやくぼんやりと考えるのだ。桑谷彰人の妻となるかと。

 男らしい雰囲気と筋肉質のすらりとした体格。判断力と決断力。許容範囲は広いが、基本的には頑固。考えの読めない瞳。優しい口元。あの素敵な手。


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