女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「あああー!!楠本の嫁さん!」
私の大声に、あっちはわあ、と叫んだらしかった。
「あ、すみません。大声で。ええと・・・正しくは、婚約者よね。楠本に携帯渡されたって言いました?」
さっき耳に引っかかった言葉を思いだすと、彼女が受話器を持ち直したようで声が近くなった。
優しい、春風みたいな声だと思った。
『はい。いきなり、うわ、ヤバイって言って私に携帯を渡して逃げ去りました。既に通話になってまして・・・』
あの野郎。私がいきなり怒鳴ることは判ってたに違いない。たまたまそばにいた彼女が気の毒でならない。
「・・・それは、本当に、大変失礼しました。私は小川と言います。あのバカが戻ってきたら言ってくださいます?全部解決したから心配の必要なしって」
『そのように伝えたら判りますか?』
「はい。あ、それと、このバカ野郎!!ってついでに一発殴っといてくれる?私からだって」
ええ!?と小さく息を呑む音がして、あたふたした声が聞こえた。
『むっ・・・無理です!すみません、出来ません!』
・・・・多分、真っ赤になってるんだろうなあ~・・と想像出来た。こりゃ楠本じゃなくても苛めたくなるわ。
すみませんって、謝ることないのに・・・。思わず笑ってしまった。
挨拶をして電話を切る。
次は、弘美だ。あー・・・こっちは時間かかるぜ。
結局休み時間一杯一杯使って事の全部を弘美に説明した。友達は、ありがたい。ただし、面倒臭いことに巻き込まれた時には、疲れるぜ、その愛情が。