女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 売り上げは上がっていた。


 歳暮と同じ勢いで帰省の土産も出る。クリスマスのケーキの予約にうちの店の隣にお客様が並び、収拾がつかなくなって、これじゃあ営業妨害だよ、と内輪で文句を言ったりした。

 今まではクリスマスとか、あまり気にしたことがなかった。

 派遣の仕事は事務が多かったし、去年は斎が繁忙期でちゃんとクリスマスもしなかった。

 今年初めて、サービス業のなんたるかを経験したのだ。クリスマスなんて、キリストの誕生日なだけだぜ!?って思わず突っ込みたくなるくらいに、お客様は興奮して買い物をされていく。

 6連勤目で、売り上げはいつもの3倍って日が続いていて、私はぐったりと店員食堂のテーブルに突っ伏していた。

 ・・・ヘビーだぜ。ああ疲れた。これが、桑谷さんの言ってた繁忙期。確かにこんな状態でストーカーのバカ野郎の相手なんか出来ない・・・。

 うだうだしていると、隣の席に誰かきた気配を感じたから起き上がった。

「お疲れさん、ダレてるなー」

 桑谷さんだった。うーん・・・・一昨日見たんだけど、今まで忙しすぎてなんか久しぶりな感じが・・・。

「お疲れ様です。・・・どうですか、鮮魚は」

 首を回して肩を叩いた彼が言った。

「うちはマーケットだから、クリスマスはあんまり関係ないしな。年末年始だな、目が回るようなのは。大変そうだな、洋菓子は」

 彼が食べている間に私がベラベラ喋る。時間帯が微妙で、店員食堂は空いていたから、小声で話していた。


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