女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「そういえば」
私が指差す。
「髪、伸びましたね。切ったの9月だったから、そうか、3ヶ月経ちましたもんね」
桑谷さんの髪はまた伸びていて、首筋にかかっている。それを触って、彼はうーん、と言った。
「長い時は切りにいかなくてよかったから、それが楽だったなー。短くすると、頻繁に散髪しなきゃなんねーのか」
「やっぱり正月前には切らないとね」
私が言うと、きょとんとした顔で彼が振り向いた。
「どうして?」
・・・どうしてって・・・。
「正月だから、でしょ?実家に帰ったりしないんですか?」
言ってしまってからハッとした。桑谷さんの実家の話、初めてだ。流れとは言え、思わず聞いてしまった・・・。
何となく居心地悪げにした私には気付かずに、桑谷さんはさらりと答えた。
「別に帰らねーなあ。そういえば、百貨店に転職してから盆暮れがないから、一度も帰ってない」
「ええ!?」
「・・・何」
「一度も?」
うん、と頷く彼を呆れてみた。
実家、あるにはあるんだ。ってことは、お母さんとか祖父母とかがいるんだろう。1回も帰ってないって、そんな・・・なんて薄情な息子だろうか。
「・・・・お母様、いらっしゃるんですか?」
彼が食べながら答える。
「母は、居る。死んだとは聞いてない」