女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
・・・いやいや、その返事もどうよ。
「息子さんには会いたいんじゃないんですか?」
すると桑谷さんは私をチラリとみて、また食事に戻った。
「俺がどんどん親父に似てくるから、顔を見てるのが辛いと言ってた。23歳の時だけど」
ああ・・・と私は理解した。
3代続いた男性の自殺の呪いを受けたのは、彼だけではなかったのか、と。お母さんも、それで苦しんだのだと。
私はゆっくりと微笑んだ。
「・・・もう呪いは解いたじゃないですか。この1月は、帰ってみたらどうですか?」
しばらく黙っていたけど、私が時間を気にして腕時計を見た時に小さく、そうするって呟きが聞こえた。
立ち上がりながら私も言った。
「私も1月3日はお休み貰ってるから、実家に帰るね。それで、5日の夜に戻るから。まだ先の話だけど」
彼が私を見上げた。
「・・・実家って、どこ?」
声は小さくて低かった。
私は止まって彼を見下ろす。そうだ、まだ知らないのか。私たちはまだ、お互いの環境について本当に何も知らないのだ。
ゆっくりと口を開いた。
「沖縄」
教えて貰えるとは思ってなかったのだろう、それかそんなに意外な場所だったか、桑谷さんの目が見開かれた。
お先です、と言って私は売り場に戻る。
クリスマスまで後3日。ここはまさしく、戦場だ。