女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 してやったりって顔で母が言う。

「あなたが16歳になって、法律的に結婚が出来る歳になってから、毎月3万をあなた名義で貯めていたの。いつまでも結婚してくれないからこんなに溜まっちゃったわ」

 ・・・・16歳で、結婚しなきゃならなかったのかしら、私は。と思ったけど、じゃあ困った時にとっておくからここに置いておいて、と言ったら、今度は父が言った。

「まりが好きに遣いなさい。その為のお金だ。ただし、貯金なんて駄目だぞ。嫁入り資金なんだから」

 はあ、成る程。嫁入り資金として貯めていたのね。そしたら一向に私が結婚しないから、大金に膨らんだってだけ。ちょっと納得した。

 仕事柄、母にはいつでも危険がつきまとっていた。いつ自分が死んでも大丈夫なようにっていうのが母の口癖だった。きっとこれもそのつもりだったのだろう。

 だから私は、最後には押し抱いて貰ってきた。

 嫁入り資金、504万円。

 去年の春先には所持金しめて13万ほどだった私が、今では威張れる貯金額に。

 空港から自分の部屋に戻ってきて、ライトアップされて夜の中輝く百貨店を窓から眺めた。

 あそこに、桑谷さんがいる。

 あと2週間ほどで、私は彼の妻になる。

 明日は二人とも仕事だけど、時間帯が違うから会えないだろう。そして明後日の7日は彼がうちへ来てくれる予定だ。

 窓枠に寄りかかって微笑みを浮かべた。


 気持ちは吹っ切れていた。ある程度の未来予想図も出来つつあった。


 あとはそれを実行にうつすだけ。



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