女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「・・・・うん?」
パッと布団の上に起き上がって、彼の手を引っ張る。
「結婚の挨拶に行きましょう!電話して、電話!!」
「え」
だれて嫌がる彼を脅して起き上がらせ、沖縄にいる私の両親はともかく、近場のあなたのお母さんに挨拶もなしでは結婚しないと言い放つと、ため息をついて電話をかけていた。
たまにしか着ないワンピースに着替えて控えめな化粧をする。口も乱暴で足癖も悪くても、一応初対面では猫を被らねば。
「・・・何か、どこかのお嬢様みたいだな」
「どういう意味よ」
漫才みたいな応答をしながら電車で向かった。どんどん口数の少なくなる彼が緊張しているのが判った。
窓の外を見ていた。真剣で静かな目をしていたから、私もあまり話しかけずにいた。彼は、過去と対峙しているもかもしれない。
天気もよく、張り詰めた冷たい空気が気持ちいい冬の日だった。
まだ松の内も過ぎてなくて、街に本当の活気が戻るのは先に思える、そんな日。
静かな住宅街を抜けて辿り着いたのは、小さな毛糸屋さんだった。
「ここ」
小さく、彼が呟く。
・・・・・毛糸屋さん?これまた、意外な。
冬の光りの中、黄色と白のペンキで塗られた小さくて可愛いお店には、お客さんは誰もいなかった。
狭い店の中は全ての壁が棚になっていて、そこに色とりどりの毛糸がまきつけられている。
色の洪水だった。
鮮やかな夢に迷い込んだかのようなその小さな店の真ん中にあるカウンターで、一人の女性が編み物をしていた。