女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
窓の外にはまだまだ元気な繁華街の明りと喧騒が溢れている。
こうも明るいと眠れやしない、といつも思うのだが、この部屋の居心地をよくしようとは一向に思わないのだ。
いや、春先まではちゃんと考えてはいた。次の大きな休みがくれば、もう少し人間らしい部屋に改造しようと。
ただし、この春先から夏にかけて、俺の身辺は豹変したのだ。
単純に言うと、恋人が出来た。
流れに乗っているうちに彼女のところが世界で一番居心地の良い場所になってしまったため、今更この部屋に手を入れようという気がなくなってしまったのだ。興味が完全に失せて、今もこの部屋は殺風景なまま。
冷蔵庫からコロナビールを出して窓際に立ち、下を見下ろす。
通りには、飲み屋からの帰りの者、それを更に取り込もうとする店の客引き、その隣に立って今夜のねぐらを確保しようと、通りかかる男の袖を引く商売女たち、それを見張る黒服と、世の中の縮図のような、いつもの光景が広がっていた。
ガランとした埃っぽい部屋を見回す。
ここに初めて通した時の彼女の呆れた顔を思い出した。
適当に座って、と言ったら、どこに座るの?と顔に書いて見回していた。そして仕方なくベッドに腰掛け、上に羽織っていたカーディガンを脱ぎ、タンクトップ姿で、暑い、と手で顔に風を送っていた。
窓からの明りで髪の毛がツヤツヤと光り、とても綺麗だった。
ちゃんとした女なのに、こんな荒削りの殺風景な部屋にもしっくりと合っていて驚いたものだった。
いつもみたいに真っ直ぐに個性を発散してそこに存在していた。
彼女を思い出すといつもなるように、体がぐっと強張った。
あの瞳と視線がぶつかると、一瞬呼吸を忘れてしまうことがある。ひたりとぶれずにこちらを見て、妙にいきいきと光りを散らすのだ。