女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
ビールが回ってきたかな・・・。
瓶をキッチンに置いて、一度深呼吸をした。すきっ腹にビールは、いつでもちゃんと効く。
百貨店の地下の食品の鮮魚コーナーで売り場責任者をやっている俺は、これで6連勤目を終わらせた。
今週は大学生のアルバイトが揃って試験中とかで人手が足りず、ハードだった。6連勤の内3日は通しで朝から晩まで働いて、ドロドロに疲れが溜まっている。
新しく着任した食品責任者の部長は嫌味ったらしい男で、一度販売会議でたてついてから俺を目の敵にしている。鮮魚は直接関係ない今度のイベントの準備に、鮮魚からも一人出せと乗り込んできたので、他のメンバーに被らせるわけにいかず、仕方なく俺が出るハメになり、今日は出勤の上に終電越えての残業となったのだ。
・・・・あのオッサン、その内労働組合にチクってやる。あれこそ公私混同だ。いい年した親父が後輩をいびるなっつーんだよ。
畜生、今晩は本当なら、彼女と過ごせたのに――――――――
同じデパ地下の、メーカーで構成される洋菓子売り場のチョコレート屋に勤める彼女の名前は小川まりと言う。
顔の造作が凄く良いというのではないが、バランスよく配置された目鼻立ちに、何よりもあの個性と雰囲気で、美人であると評される。
可愛いというよりは綺麗だし、酷く色っぽいかと思えばいきなり男みたいな行動や発言をして回りを仰天させている。えらく華奢なヒールを素足に履いたクールビューティーな格好で、赤提灯の店で飲んだくれたりするのだ。それがまた、よく似合う。