女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
その、無鉄砲でハチャメチャで柔らかで絹のような瞳をした謎の多い彼女に、俺は滅法惚れている。
この夏は随分と彼女に振り回されたものだった。・・・まあ、それを迎合したのは俺だったけど。
彼女を思って熱くなりだした体を持て余して、シャワーを浴びることにした。
もう一本ビールを出して、シャワールームに持ち込む。
冷たいやつを浴びる必要がある。
冷たいのを、長いこと。この体を落ち着かせるために。
簡易シャワーを浴びながら、緩んでくる口元を押さえるのに苦労した。
明日は、彼女に会える。
「――――――何だって?」
俺の声が事務所に響いた。
雑多な事務所の一番端で、古い机の向こうに座った滝本は眼鏡の奥から静かにこっちを見た。
「もう一回言おうか?」
「いや、いい。記録見せてくれ」
親切な、というよりは、歳を取ったなとからかうようなニュアンスを聞き取って、かつての相棒の言葉を手で払った。
ちゃんと、聞こえた。
必要なのは情報だ。
「何て名前だっけ?あいつは。・・・・細川。ああ、そうだったな」
思い出した。
滝本が放ってくれた記録には当時31歳だった細川政也の写真が貼ってある。優しそうなと形容される表情で前をむいて写っている写真が。