女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 ただし、こいつは変態ストーカーだった。

「・・・・・何だって、いつまでもバカなんだよ・・・」

 俺が刑務所に放り込んだこの元ストーカーが、この度晴れて出所したらしい。そして愚かなことに、過去の恨みを引きずって、俺に『お礼』を言いにきたらしい。

 ―――――――大人しく娑婆を楽しめってんだよ、この腐れストーカーめ。

 心の中で毒つく。本人を前にしてバカかお前はと罵ってやりたいが、それは大人のすることじゃあないしな・・・。

 26歳の時に一緒に調査会社を立ち上げた元相棒の滝本(今はここの社長)が、椅子に深く寄りかかった。

「確かに面倒臭いが、あいつもそんなにバカだとは思いたくないし、お前が身辺に気をつけてさえいれば大丈夫だろう。お袋さんと連絡取ってるのか?」

「取ってない」

「だったら、テメエの心配だけだろうが」

 普段は柔和な表情に紳士的な態度、完璧な敬語を駆使して話すのに、俺相手だとどうしても素顔が出てしまうらしい滝本を眺めた。

 俺も椅子に座りなおしてため息をつく。

 確かに、今までの俺なら気にもしなかっただろう。笑って手を振って、それで終わりだったはずだ。だけど、今は―――――――

「・・・それがそうもいかないんだ」

「ん?」

「テメエの心配だけってわけにいかねーんだよ」

 何やら楽しそうな表情になった滝本が身を乗り出した。

「・・・・まさか、お前」


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