女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
弘美は、斎が捕まったのを知らないらしい。ご飯を食べていないだけではなく、テレビも観てないようだ。積もる話の量が膨大だわ、こりゃ。
新しく出来たイタ飯屋さんで、その積もり積もった話を全部話すのに3時間かかった。
自営業故かの弘美はヘビースモーカーなので、聞いている間にタバコを2箱あけ、私にもすっかり匂いがついてしまって閉口する。
「・・・・知らなかった。あの美形は悪魔だったのね」
弘美は、もうあたしのキャパから溢れてるわ~と漏らしながら瞼を押さえた。
「しかし、普通は仕返しなんて企まないよね。どうしてあたしに連絡くれなかったのよ?大金は無理だけど、暫く暮らすくらいのお金は出したじゃん」
有難いお言葉だ。友達って、いい。私は彼女にグラスを上げてみせて、感謝を示す。
「困窮してたわけじゃあないからね。とにかくムカついて」
その返事にあはははと笑った。そのお陰で泣かされる女性は減ったんだよね、よくやった、と褒めてくれて、再度水で乾杯した。
弘美はちろりとこっちを見て、くくくと笑う。
「でも、今の婚約者はいい男らしいじゃない。掘り出し物だね」
話で乾いた喉を水で潤して、私はため息をつく。
「・・・だからさ、すれ違いなのよ。一体どこで何をしているのやら」
「聞けばいいじゃない」
「教えてくれないもの」
肩をすくめた私に、片眉を上げて聞いた。
「聞いたわけ?」