女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
カウンターの前に男性が立っていて、3千円の商品を指差してこっちを見ている。
ありゃあ、お客様がいたとは!私は慌てて笑顔を作り、接客に入った。
「いらっしゃいませ、お待たせいたしました」
若い男性客で、近寄ると軽く会釈して、これ下さいと小さな声で言った。
「はい、畏まりました。本日お持ち帰りですか?」
ポケットからメモ用紙を取り出しながら聞くと、送って貰えますか、と返事が返って来た。
竹中さんの耳のも届いたようで、カウンターの中から配送伝票を渡してくれる。
「恐れ入ります、お届け先とご依頼主様の記入をお願いします」
微笑んでペンと一緒に渡す。そして、横に立って記入が終わるのを待った。
チラリと隣の店をみると、田中さんも「しくじったね」って顔で苦笑していた。しかも3千円のお買い上げと聞いて、悔しいのだろう。今日も暇で、どこの店も予算の達成に四苦八苦のはずだ。
少し得意げな顔で見返していたら、記入が終わったようでお客様がペンを置いたのが見えた。
「お熨斗紙はいかがいたしましょう。リボンもございますが」
聞きながら、必要事項を埋めていく。今日の日付、販売員の名前、店の内線番号。
「お礼でお願いします」
相変わらず小さな声で、答える。お礼ね、えーっと・・・。
「名前はいれますか?えー・・」
依頼主の名前を見る。苗字、もしくは下の名前、フルネームで書いてくれというお客様もいるから、必ず聞かなければならない。それに頼まれて買いに来た場合、御依頼主の名前をかくとも限らないわけで。
名前を復唱しようとしたら、先にフルネームで入れてください、と言われた。