女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
私たちは恋に落ち、バカ野郎の斎が逃亡先の関西で逮捕されてからは職場公認のカップルとなった。
父から曽祖父にかけて30代前半で自殺をしていると自分の血に怯える彼は、お守りにしていた自分の長髪を、34歳の誕生日を迎えたその日に切り落とした。
前も後ろも長く、サムライヘアーにくくっていた時とはえらく印象が変わった短髪になったけど、冷静な一重の目や素早い反射神経、ユーモアを解する明晰な頭脳は変わらない。
そして、あの大きくて器用な手で、私を愛するやり方も。
髪を切ると同時にプロポーズされたけど、私は今はダメ、と答えたのだ。
「半年待って」
と伝えた。こちらにはこちらの事情がある、と。彼は不服そうにしていたけど、私の部屋でほぼ同棲の生活を送ることで、まあいいかと思ったらしかった。
そうして、お互いにプライバシーを守りながら、婚約者として幸せな日々を送っているというわけ。繁華街にあるビルの最上階のテナントハウスは持ち家らしいけど、その部屋も売らずに持たせたままでいた。
忙しい夜には、彼は自分の部屋で眠る。私はその自由を愛していた。
「わお、豪華ー」
小さなテーブルにいっぱいいっぱいに並べられたお皿の中身を見て歓声を上げる。
金色のオムレツ、トースト、サラダ、コーヒー、ハムの盛り合わせ。朝からゴージャスだ。
まだ髪は濡れたままで、部屋着を簡単に着た格好で椅子に座った。
「頂きます」
両手を合わせてお辞儀をし、ふわふわの素敵なチーズオムレツを食べる。幸せな笑顔の私のその顔を、前に座った彼は嬉しそうに見ていた。