女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「・・・・どうするべ」
頭を抱えた。うーん・・・帰りまでには桑谷さんに電話も通じるとは思うけど・・・。相手には知られているのに、こっちは相手の顔も知らない。これでは気をつけようがない。
・・・・畜生。まだ見ぬストーカーを口汚く胸の中で罵って、携帯を閉じた。
でももう仕方がない。既に部屋は知られている。今日いきなり接触してきたわけは判らないけど、これで私も警戒すると考えるのが普通だ。一般的な女性なら、気持ち悪い手紙を貰ったあとに気持ち悪い電話を貰ったならば、警察に届け出るだろうし。まあ私はしないんだけど。とにかく、桑谷さんと話すまでは行動が出来ない。
桑谷さんに電話はするけど、普通に帰る、と決めた。いつもより気を配って、百貨店を出てからは部屋までダッシュしてもいい。
どんどんムカついてきて、私は音を立てて弁当箱を閉めた。
ストーカーのバカ野郎!来るなら今晩来てみろ――――――――――八つ裂きにしてやる。
ところが、何と言うことか、夜になっても桑谷さんの携帯には通じなかった。
普段こんなにマメに連絡することがないから、普通がどうなのか判らない。だけど、今日は真面目に困った。
「・・・・うーん・・・」
ロッカーで着替えて、そのまま座り込む。
どうしようかなあ~・・・。やっぱり、家まで走る?元々単身者が多いアパートで、皆帰りの時間も違うみたいだし、他の住人と共に帰宅ってわけには行かない。
・・・・面倒臭い。
しばらく考えたけど名案は浮かばない。もういいや、と膝を叩いて立ち上がった。
私の貴重な時間をどこの誰とも判らないバカ野郎に潰されてなるものか。