女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「食べないの?」
「勿論、食べる。でも作ったご飯を美味しそうに食べる人の顔を見るのは、料理人の幸せだからさ。先に、観察」
彼がニコニコそう言って、自分も食べ始めた。
「・・・いつの間に料理人に。あなたは魚屋さんでしょ?」
「さばいて刺身も出すぜ」
・・・それでは料理人とは言えないと思うが。それは口に出さないでおいた。なんにせよ、何させても上手いし早いから、この男は重宝する。
「今日は休み?」
サラダを口に入れながら聞くと、ちらりとこっちに視線を投げて頷いた。
「――――――そうだけど、昼から出かける」
ふーん、と返した。別に何か二人でしたい予定があったわけではないから、こちらに異存はない。大体、彼の休みを一々把握していないのだ、私は。
「夜はどうするの?」
この部屋へ帰ってくるのか、という意味だ。
来るならその用意があるし、時間によれば晩ご飯も作るし寝ずに待つつもりだ。
彼は少しだけ宙を睨んで首を傾げ、それからゆっくりと首を振った。
「・・・遅くなると思うから、自分の部屋に帰るよ。明日は遅番だから出勤にも余裕があるし」
「はい、了解。そしたら私は家事をして、ゆっくりしとこうっと」
両手にマグカップを持ってコーヒーを飲む。ううーん、幸せ。朝のこの一杯で、やっと私は覚醒する。