女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 適当に座ってと手を振って、台所に入った。

 今日は昼から半休取ってるし、お前に会うから電車で来た、なんて嬉しそうに言うから、判ってると頷いて、テーブルにおつまみとビールを並べる。

 平日の昼間、窓から心地よい風が入る私の小さな居間で、極上のイケメンと宴会を始めた。

 うーん・・・何て贅沢な時間だ、としみじみ思う。

 風は気持ちよく、キラキラと光が舞う中で久しぶりの親友と酒を飲む。しかも相手は滅多にお目にかかれないような美男子とくれば、目の保養まで出来るのだ。

 私たちは上機嫌で、空白の5年間を埋めるべく近況を話し合った。

 仕事もうまく行ってるようで一営業から課長に上がり、まさに順風満帆な生活らしかった。

 安心した。友達の幸せは喜びだ。

 楠本が差し出した結婚式の招待状を両手で受け取って、私はにやりと笑う。

「あんたが結婚って聞いた時は本気で嬉しかったけど、ちょっと驚いた。最後に会った・・・えーっと、具体的にはいつから会ってないんだっけ?」

 グラスを傾けてビールを流し込みながら楠本が答える。

「25」

「そうそう、25歳の時よね。あの頃あんた、しばらく女と付き合う予定はないって言ってなかった?」

 ひょいと肩をすくめて、彼が言った。

「―――――その頃は。支社を異動したばかりで営業成績も上げなくちゃならなかったし、時間もなかった。けど、正直、女は暫くごめんって状態だった」

 はいはい、思い出した。24,5でこいつが付き合っていたのは同じ大学の後輩で、やれ結婚しろだ子供が欲しいだとやかましく、その上に嫉妬深くもあったので、こいつは悲惨な目にあったんだった。


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