女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
ついでにその頃はまだ私と遊んでいたから、その嫉妬深いバカ女から数々の嫌がらせを受けたんだったわ、私も。
そのバカ女は二言目には「男女の友情は有り得ない」とぬかし、私という彼女がいるのにあんなふざけた女(つまり、私だ)と遊びに行くなんてどういう事、と楠本に詰め寄り、俺様ではあるが横暴ではないこの男をキレさせたのだ。
楠本が本気で怒ったのを見たのは、私はあの一度きりだ。
私があぐらを組んでおつまみを口にいれつつ回想していると、楠本はアルコールの回って少し赤くなった顔で言った。
「でも、あいつは違うんだ」
その声にハッとする。
こんな優しい声を出すのか、彼女のことになると、と驚いた。
「どんな子なの?今いくつっていったっけ?25歳?」
私の問いにコクンと頷いて、楠本はだらりと後ろの壁にもたれかかった。
濃紺のスーツのジャケットは脱いで椅子にかけてあって、その上にさっき解いたネクタイもかけていたから襟元が開いていている。その上に酔ったトロンとした無防備な瞳で、もう強烈な色気の垂れ流しだった。
今ここで写真とれば、間違いなく売れる・・・。金のない私の邪悪な心が呟いたけど、少々残っている理性をかき集めて何とか諦める。
あぶねーあぶねー、本当に実行しそうだったぜ、私。
「まっすぐ、正直、猪突猛進、少し鈍くて、たまに頑固」
楠本がゆっくりと呟くように言った。
「・・・それがあんたの好みだったのね」
私のコメントは無視してそのまま続ける。
「責任感が強くて、媚びない。初対面で俺を意識せずにしっかりした挨拶をした会社の新人女子はあいつくらいだ」