女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
・・・・へえ、それは凄いかも。この美形を前にして、動じない女がいるのか。
でもそれを口に出すと、楠本は違う違うと手を振った。
「挨拶に一生懸命で周りをみてないってだけだ。トマトは――――・・・・」
「は?」
今、何か奇妙な単語が耳にひっかかったけど。
一瞬真顔になって、楠本が口を閉じた。私は目の前の男友達をガン見する。
「・・・ねえ、今何て言った?トマトぉ??」
しまった、と言いながら口ごもるやつの足を、前から私はげしげしと蹴る。
「何の冗談よ、まさか彼女の名前?」
いやでも。さっき貰った招待状には、普通の、可愛い名前があったよね。招待状を開いてみる。新婦、瀬川千尋。可愛くて、まともな名前だ。
あーあ、と言いながら、楠本は片手で髪をかき回した。
「・・・赤面症なんだ。すぐに赤くなるから、俺がからかってつけたあだ名」
私は新しいビールの缶を開けながら、前の酔っ払いを睨んだ。
「・・・あんた、それってサイテーよ。笑いものにしたわけ?彼女傷付いたでしょうねえ~」
自分ではどうにも出来ない身体的な事柄をからかうなんて。なんつー男だ。可哀想な彼女。
「うるさい。まったく、お前と仲間は本当によく似てるよ。いつでもガミガミ・・・」
言いかけた楠本が、言葉を切ってちらりと私を見て小さく笑った。
「そういえば、俺を全く恋愛対象として見ないのも、お前と仲間だけだな」