女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「・・・・・何もないのはみて判ったけど」
「あるわけない!一体誰よ、そんなことわざわざ電話して言ったのは!?」
桑谷さんの静かな声は、小さかったけどよく聞こえた。
「・・・細川。例の、ストーカーだ」
ぎゃあぎゃあ騒いでた私たちが、同時に止まった。
楠本は怪訝な顔してこっちをみている。
「ストーカー?」
私は楠本の顔の前に手を出して、ストップ、と言った。
「説明長くなるのよ。それで――――」
桑谷さんの方を向く。
「あなたに電話が掛かってきたの?携帯に?」
「・・・いや、百貨店だ。俺宛に。どうして判ったのか謎だ。そして、ヤツが君のことを知っていたのにぞっとした。君の携帯にかけても繋がらないし、電話の内容はともかく、もしかしたらヤツがここにきているのかと思って仕事放り出してきた」
はあ、成る程ね。私の売り場にもかけてきたんだから、桑谷さんが鮮魚で働いてるのを知ってれば、それは可能よね。なんせ百貨店には便利な電話交換手がいるんだから。
そして、携帯は台所の引き出しにしまったままだった事を思い出した。
一人頷きながら、私が言った。
「別に謎じゃあないわよ。あの男、私に接触してきてるもの。手紙と、電話で」
男二人が同時に顔を上げてこっちを見た。
非常に真面目な顔で。