女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
ハッとしたように楠本も振り返る。
・・・・彼がキレかけている。
だけどここでいつもみたいに軽口や無駄口を叩けば、今度は生真面目な楠本がキレかけるに違いない。
私はため息をついて、急に痛み出した頭を片手で抑えた。
仕方ないからマトモに答える。
「一昨日は何度電話してもあなたの携帯には繋がらなかった。百貨店から走って帰ってきて、私は無事だった。帰ってきたらまた郵便受けに手紙が入っていて、あなたにメールしようと思ったのよ。でもこいつからも――――」
と、楠本を指差す。
「メールが来てて、今日の楽しい計画を立ててる間に後回しになっちゃってたの」
1週間前にきていた手紙については黙殺した。連絡を取ろうとしなかったことが今ばれると更に面倒臭いことになる。これ以上はごめんだ。
「後回しにするようなことじゃねーぞ、まりっぺ」
不機嫌そうに言った楠本を見て、桑谷さんがありがとうと言うように頭を下げた。
そして私をじっと見詰めた。
「・・・つまり、俺と君が百貨店で働いているのもバレてるし、君が俺の彼女なのも、ここに住んでるのも、名前も店も全部あいつは知ってるって事なんだな?」
彼の言った言葉を反芻して、頷いた。
「そうね」
盛大なため息が聞こえた。
一度強く頭を振ってから、桑谷さんは私を指差して言った。
「部屋からは出ないでくれ。俺は一度百貨店に戻る。次戻ってきたら、初めから全部話して貰う」
私は頷いて、右手を高くあげてはーい、と返事をした。