女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「バタバタと本当にすみません。せっかく気持ちよく飲んでいたところに割り込んで」
楠本の方を向いて謝る。
「大丈夫です。イマイチ、何がどうなってるのかが判りませんが。・・・こいつは何か危ないことになってるんですか?」
楠本がチラリと私の方をみる。
桑谷さんが苦しげな表情をした。
「・・・まだ、何とも。でも彼女に降りかからないように最大限の努力をします。これは全部俺のせいなので」
とにかく一度失礼します、と会釈をして、来た時と同じように一瞬で桑谷さんの姿は消えた。
しばらく二人で呆然としていた。
「――――――水、くれよ」
楠本のハスキーな声が耳を打ってビクッとした。
切れ長の瞳を細めて、彼が見下ろしている。酔いは完全にさめたようだった。
「そして、俺にも説明してくれ」
声には決意が感じられた。話を全部聞いて納得するまでは帰らないつもりだと判った。
床に転がっている空き瓶を足で蹴って、私は長い長いため息をついた。
あーあ、宴会は終わりだ。
そして、コーヒーを淹れるために立ち上がった。