女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


「バタバタと本当にすみません。せっかく気持ちよく飲んでいたところに割り込んで」

 楠本の方を向いて謝る。

「大丈夫です。イマイチ、何がどうなってるのかが判りませんが。・・・こいつは何か危ないことになってるんですか?」

 楠本がチラリと私の方をみる。

 桑谷さんが苦しげな表情をした。

「・・・まだ、何とも。でも彼女に降りかからないように最大限の努力をします。これは全部俺のせいなので」

 とにかく一度失礼します、と会釈をして、来た時と同じように一瞬で桑谷さんの姿は消えた。

 しばらく二人で呆然としていた。

「――――――水、くれよ」

 楠本のハスキーな声が耳を打ってビクッとした。

 切れ長の瞳を細めて、彼が見下ろしている。酔いは完全にさめたようだった。

「そして、俺にも説明してくれ」

 声には決意が感じられた。話を全部聞いて納得するまでは帰らないつもりだと判った。

 床に転がっている空き瓶を足で蹴って、私は長い長いため息をついた。


 あーあ、宴会は終わりだ。


 そして、コーヒーを淹れるために立ち上がった。



< 59 / 144 >

この作品をシェア

pagetop