女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「・・・・昔馴染みに会うんだ」
窓の外に目をやりながら彼が呟いた。
「へえ。そしたら髪型が変わっててびっくりするかもね。全然イメージが変わってしまってるんだから」
彼は肩を越える長髪だった。職場のデパ地下ではいつもひとつにくくっていて、長身の上に長髪、体格もいいのでかなり目だっていた。
無事に誕生日を迎えられたからとお守りにしていた長髪を切った時、百貨店側の社員の中には短髪だった彼を覚えている人もいたけど、大多数は(特に地下では)初めての事だったので、見る人見る人が驚き、大変な騒ぎになったものだった。
皆が急に髪を切ることにした理由を彼に聞くと、笑って、その度に何と『洋菓子の小川さんにプロポーズする為』などと答えやがったものだから、私まで大変になったのだった。・・・くそ。
それまでの「あの二人は付き合いだしたらしい」から「結婚秒読みだってさ」に噂話の中身が変わり、元彼の守口斎からこの夏に桑谷さんに乗り換えてもう結婚なんて早いから、きっと出来ちゃったんだろう、なんて妊娠してることにまでされていた。
何だか皆がやたらと好奇の目でみるなあ~と気楽に考えていた私は、自分のプロパー店の店長である福田店長から、小川さん妊娠してるって本当!?といきなり聞かれて売り場で倒れかけた。
「・・・・何デスカ、それは?」
私がよろよろと起き上がって聞くと、だって皆が・・・と言って周りの店を見渡す。
各店のパートのおば様達がキラキラしたおメメでこちらをみていた。