女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
この春からのことを話すのは面倒臭いので斎の話は端折って、ストーカーが出所したところから話をした。
楠本はじっと聞いていて、一度も口を挟まなかった。
肌で感じられるくらいの集中力だった。何と言うか、さすがエリートの元スーパー営業だ。
「・・・・俺の家に来ないか?」
最後まで話したあと、私がとりあえずこんなとこと言うと、楠本が低い声で言った。
私は即答する。
「やだ」
「俺は彼女の部屋にうつってもいい。とりあえずここから離れたらどうだ?」
首を振った。
「アイツはストーカーなのよ。またつけられて結局居場所がばれて、次にあんたや彼女まで標的になったらそれこそ悪夢だもの」
虚をつかれたような顔になった。そして、そうか、職場がばれてるんなら同じってことか、と納得したようだった。
「大丈夫よ。桑谷さんは、今日の事で間違いなく怒った。彼は元プロでそんなことばかりしてたわけだし、ラッキーなことに職場も一緒。離れないようにするから」
笑顔で言ったが、まだ微妙な顔をしたままで楠本は私を見ていた。
「警察にいけよ。今から、俺がついていくから」
「嫌よ。これだけじゃあ警察は何も出来ない。せいぜいここら辺のパトロールを増やしてくれるぐらいで」
「・・・・俺達の結婚式で、お前の訃報を聞くのは嫌だぞ」
「勝手に殺すなっつーの」
「マジで心配だ」
「おや、それはありがとう」
舌打ちをした。眉間に皺をよせて、楠本が睨んだ。