女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「お前が無鉄砲なのを知ってるから言ってんだ。頼むから、一人で対処しようなんて思わないでくれ」
・・・何でバレたんだろう。一人で何とかしようと思ってたの。ううーん、さすが、長年の友達は違うぜ。これで斎の話なんかしたら長い説教くらうに決まっている。絶対、こいつには内緒にしておかなきゃ。
私が一人で決心していると、コーヒーを飲み干して楠本が立ち上がった。
「悪い、千尋と約束してるから帰る。もうすぐ彼は戻るのか?」
時計を見た。夜の9時。楠本を振り向いて頷いた。
「彼氏と是非今度一緒に飲みたいと伝えてくれ。くれぐれもお前のことを頼まないと」
そう言って、楠本はにやりと笑った。
「頼もしそうだし、いい男じゃないか。離すんじゃねーぞ」
私は無言で構えていきなり拳をふるった。間一髪でそれを避けて、あぶねーと文句を垂れる友達を眺める。
「やかましい。あんたも折角捕まえたマトモな女、大事にしなさいよ」
また、にやりと笑った。そんな姿さえも格好のいい男だった。
玄関先で手を振って別れる。
「じゃあね、来てくれてありがとう。途中までは、本当に楽しかった」
「おう、久しぶりだったな。気をつけてくれ」
私のおでこのラインにある彼の肩を叩いて送り出した。
「トマトちゃんに宜しく~」
楠本は大きく笑って階段を降りて行った。
それを見送って、周囲を見渡す。
この暗い街角の片隅に、今も潜んでこちらを見ている男がいるかもしれないのだ。
私は少し微笑した。
大丈夫だ、負けやしない。
そしてドアを閉め、ちゃんと鍵も二つかけた。